「君とは別れねばならない」

急なアルバフィカ様の言葉に美々は作業の手を止めて振り返った。双魚宮から見える景色は薔薇と、雨。ひんやりとした空気が外から流れ込み美々の肌を粟立たせた。

「……一体、どういうことでしょうか。僕、何かアルバフィカ様の気に障ることを…?」
「……別にない。だが美々、お前は故郷に帰れ」

そう言ってアルバフィカ様は6月の雨の中へと去ってしまった。待って下さい!と声を張り上げるが届かなかった。…なぜ?人とあまり関わろうとしないアルバフィカ様に人の温もりは優しいことを教えようと女官ながら頑張ってきた。おかげで笑みを前より浮かべられることが多くなった。淡い想い、おこがましくもお互いにそんなものも掠めていたと思っていたのだが、あんな拒絶とも言える言葉…少なからずショックだった。もうすぐ聖戦が本格化する、だから危険の少ない聖域から遠い故郷へ美々を帰そうとしているのは分かる。でも、だからこそ最後まで彼の傍に居たかった。見守りたかった。でも一介の女官は黄金聖闘士には逆らえない。

「嫌、だ…離れたく、ないです…っ」

嗚咽が零れる。しゃがみ込み頭を抱える。涙で潤む瞳を閉じると瞼の裏に今までの思い出が蘇ってきた。忘れられない、大切な思い出。アルバフィカ様の笑顔が浮かんできた。

ザアアアア――

雨が激しくなってきた。まるで美々の心を表しているようだった。この雨のように、いつか心の痛みが止むことはあるのだろうか。セピアに染まっても、この痛みは治まらなさそうだ。美々はこの雨の中アルバフィカ様を想った。

「どうか、勝ち抜き生きて下さいますように…―」



***



彼女は私の太陽だった。人と交わらない私に人の温もり、優しさを教えてくれた。笑顔を思い出させてくれた。大切な人だった。だから教皇様からの魔星の復活の凶報は私を苦しませた。此処に居れば守れるかもしれないが、必ずここに冥闘士共は来る。それなら遠い地に行った方が奴らと遭遇することもないかもしれない。苦渋の選択だった。だが、彼女の幸せを思うとこんなところで死なせたくはなかった。

「すまない、美々…」

思わず雨の中へ逃げてしまったアルバフィカは自身が濡れようとも構わず薔薇園の奥へと進んでいった。アルバフィカと彼の師ルゴニス、それと耐毒を身につけた美々しか入れない場所。赤々と華やかに、しかし人を簡単に殺せる猛毒を含む薔薇たち。だが、この薔薇の香気は香しく、美しい。ふと影がさす。振り返ると傘を差し出す美々だった。涙で赤く潤んだ瞳を無理矢理笑みでごまかす彼女は痛々しかった。

「アルバフィカ様、宮へ帰りましょう…」
「………ああ、」
「僕は、できるだけ早く此処を発ちます」
「!……そうか」
「だから、アルバフィカ様は聖戦を終わらせて、僕をまた聖域で、貴方の傍にまた置いて下さい」

それまで、待ちます。そう言い切った美々は、驚いたアルバフィカへ小さく笑いながら傘の中へと誘う。その中へゆっくり入り、2人肩を並べ双魚宮へと足を進めた。







ダリアン様からのフリリクでした^^
またのご参加ありがとうございました!
まだまだ未熟ですが見守っていただけたらと思います。
シドのレイン、PVはご覧ですか?
あれはとても綺麗で何度も見たくなります^^