知ってるんだ。ラビが私以外の女を抱いてること。いつも私に囁く愛の言葉も、私の身体を抱き寄せる腕も、絡ませ合う指も、キスをする唇も、全て私だけのものじゃあなくて他の女にも捧げている。彼が変わったのは箱舟から生還した時からだった。そして本部襲撃がトドメとなったのだろう。傷だらけの私は本部の引っ越し作業に遅れて参加した。

「お待たせ!美々ちゃんの登場っ」
「やっと起きましたか美々、こっちを手伝って下さい」
「…私への扱い酷くねアレン」

大きな段ボールを2つよいしょと抱えたアレンはうとうととしながらもリーバーの指示に従って荷物を運んでいた。近くをふよふよとティムが浮いている。私は近くを通り掛かったリナリーに彼氏は何処に居るかと尋ねた。さっきアレンに聞いたらシカトされたのだ。リナリーは少し考えてから分からないわと答えた。首を傾ける、なんでみんなラビの居場所を知らないの?辺りを見回してたしかにあのオレンジ頭は見えない。

「リナリー、なにあいつサボってんの?」
「そ、そんなことないわ!」
「やっぱり知ってんじゃん、ラビ何処」
「え…、でも…」

吃るリナリーに疑問が沸いた。そこに神田が顔を歪ませてやってきた。手をにぎにぎとしながら、どうやら六幻が手元に無いのが気に食わないらしい。

「おいリナリー、あのウサギをなんとかしろ」
「ダメよ神田!」
「あいつ女とイチャつい、て…る…、………」

どうやら神田は私に気付いてなかったらしい。私の顔を見て珍しく己の顔を真っ青にした。リナリーも困ったように私を見つめた。まるで何分も時計が止まったかのように長い沈黙が流れた。声を出そうとするけどばくばくと心臓の音が大きく、口からは息しか出ない。ようやく出した声も震えていた。

「……神田、ラビはどこ」
「…ラボの近くだ」

動かしづらい身体をゆっくりそちらに向けて歩きだした。鉛のような身体はまるで傷が開いたかのようにズキズキと痛みを増した。オレンジが書類の山からちょこっと見えた。隣には金髪の……女。あの子、医療班のライラだわ。

「ラビ、この書類はもう覚えたの?」
「勿論さ。だからそっちの箱に入れといてくれー」
「ふふ、りょーかい!」

仲良く肩を並べて本やプリント、書類を整理する彼ら。私は目を離せなかった。ふと視線に気付いたのか顔を上げたライラと目が合った。彼女はゆっくりと勝ち誇ったような笑みを浮かべてわざとらしく彼に、ラビに寄り添った。

「ラビ!そろそろお昼にしましょう」
「もうこんな時間かあ、そうするさね!」

結局のところラビは私に気付かずそのまま食堂の方へ向かっていった。ライラと2人で、手を繋いで。




あれ、私ラビと別れたっけ。そういえばお見舞いにも来てくれなかったな。アレンたちは1回は様子を見に来てくれたのに。私はレベル4との激戦で彼らの中で1番怪我が重傷でイノセンスの関係上治りも遅いのだ。因みにイノセンスは「命(ライフ)」、血液を介して戦うのだ。(クロウリーのようにはなれないことはここで明言しておこう。)

「美々…、べ、別にただの偶然だわ。ラビとライラが一緒に居たのは…」
「……」
「おい、美々?」

ずっと黙ったままだった美々を不思議に思って神田は顔を覗き込んだ。そして固まった。目が、死んでいるようだ。それでも口元は少し上を向き『笑み』を象っている。

「皆、早く片付けよ!ほら、ジョニーなんて死にそうな顔してるよ」
「美々…貴女…っ」

リナリーが顔をくしゃっと歪ませた。でも私は何故そんなに悲しむのか分からなかった。きっと、ブックマンだから仕方ないのだ。私が重荷になった、ただそれだけのこと。私たちの間には1つのルールがあった


『互いに、重荷にならない』


それはエクソシストとして、ブックマンとして、教団として、人間としての約束。だからこれでいいのだ。きっと、1週間もすれば元に戻る。私たちは、友達に戻れる。でも胸のズキズキは収まらず、逆に浸食しているようだった。…………大丈夫よ、美々。貴女なら、出来る。自分に言い聞かせた。私は貴方に背を向けます。逃げる私は愚かなのだろうか、でも今の私にとってはこれが最善であるのだ。








悪者ラビになっちまったぜゴメンラビ愛してる/(^0^)\←