ハーデスは器の少年から見る景色を忌ま忌ましそうに眺めた。気に食わない。余の力を勝手に使っているとは。もっと許せないのは我が妻を器が愛していることだ。その器に向かい笑みを浮かべる妻、今は美々と名乗るペルセポネも許せなかった。
アローンは自分の傍に引き寄せた美々の黒髪を梳きながら目を細ませ堪能している。それを甘んじて受け入れる美々。2人は同じ故郷であり、幼なじみであった。テンマとは異なり生粋の日本人だった為にからかいの対象だった美々を庇ったことから2人は急激に近付いた。2人の長い黒髪は闇の中で交じり合うように絡む。
「ハーデス様…」 「どうしたんだい美々?」 「今度は私の絵を描いて下さいな」 「…余の、僕の絵に描かれたものは死に絶えるんだよ?」 「私は冥界の王の妻、それくらい跳ね退ける力はあります」
ふんわりと笑いそっと自分の唇をアローンに押し付ける。それに上機嫌になったのかアローンは更に抱きしめている力を強め、地面に押し倒した。
ああ許せない。余だけのペルセポネ、余だけの美々が人間ごときに微笑み触れられ唇を合わせ、ましてや身体を重ねるなど断じて許せぬ!力を使おうともまだ器には小娘の小宇宙の加護があるらしく思うように力が湧かない。
「器の少年よ、それ以上我が妻に触れて見ろ…地獄より酷い目に合わせるぞ」
そう小宇宙に乗せて伝える。伝わったのか美々にキスしていた顔を上げ目を見開いていた。
「…!」 「どうしたのアローン…?」
取り繕うようになんでもないよと言ったアローンは美々に見えない位置で歪んだ笑みを浮かべた。
「貴方に彼女を、美々を渡すものか」
人間の宣戦布告。ハーデスは嘲笑った。なんと愚かな人間だ。でもよかろう、そのゲームに余自ら参戦してやる。だが忘れるな器よ。
「ペルセポネが愛したのは、ハーデスであることを!」
安息は訪れない
その言葉を聞いて歪ませた器の顔は、なんとも滑稽だった。余を押さえ込んでるいるからとはいえ図に乗るなよ。
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