ヒュプノスはアローンという冥王ハーデスの器の少年と会ってから森の大聖堂への帰路についていた。もうすぐ聖戦が始まる…。ゆっくり笑みを浮かべた。唯一気掛かりなのは彼の手首から発せられる忌まわしい小宇宙。あれはアテナの小宇宙に違いない、まさか神が人間として生まれたのか?冥王ハーデスの器の少年の妹として。今生はなんて奇怪ななだろうか。だがこのクソ長い変哲のない聖戦は今回は楽しそうだ。そう思いながら森の中を進むと人間の気配がした。…死すべき存在、いつもならスルーする所だがこのまだ幼い小宇宙は何処かで感じたことのあるものである足を止めた。漆黒の髪を持つ少女は目の前で止まったヒュプノスを見上げた。ぺしゃりと座り込んだまま動こうとも会話をしようともせず、ただ見つめ合いが1分程続いた。ニヤリとヒュプノスが笑う。小宇宙を使いニンフと戯れているであろうタナトスを呼び出す。
「全く…本当に今生は面白くなりそうだ」 「……何が、ですか」 「まだ思い出せないのか…ん?その花輪…」
少年の手首にあったものと同じそれが少女にもあった。
「君はアローンという少年を知っているみたいだな」 「!アローンを知ってるの…?」 「私は森の大聖堂から来たのだよ」
そう言うと今まで無表情だったのが嘘のように顔をパッと輝かせた。
「アローンの絵を見に来たんですね!」 「!?…あ、あぁそうだ…」 「嬉しい!アローンは大聖堂の絵に憧れてるからそこの神父様が見に来てくれるなんて…!」
嬉しそうに笑みを零す少女は主の妻であるペルセポネの面影が色濃く出ていた。――あのお方も、柔らかな笑みで我らを迎えてくれたな。押さえ付けていた感情を思い出し心が揺れた。
「急に呼び出したかと思えば人間の小娘の前で何を呆けているのだヒュプノスよ」 「タナトス、このお方はペルセポネ様である。他の人間と一緒にするな」 「!本当か…嗚呼この愛らしい程温かな小宇宙…」
恍惚な表情を浮かべ少女の前に膝をつく。彼女は突然現れたヒュプノスそっくりのタナトスに驚いているようだった。
「名前は何と言うのだ?」 「えっ…?あ、美々です」
ヒュプノスとタナトスはにい、と笑みを浮かべた。2人はひざまづいた。
「「後少ししたらお迎えにあがります、美々様」」 「…え?」
唖然とした表情の美々をそのままにしてヒュプノスとタナトスは森の奥へと足を進めた。無言だったがそれをタナトスが破った。
「……彼女がペルセポネ様でなかったら…」 「我らが頂いたのだがな」
悔しそうに歯軋りするタナトスを尻目にヒュプノスは自分の掌を見つめた。…血が、滲んでる。どうやら無意識の内に悔しかったのだろう。彼女の、美々の容姿は神話の時代に2人で愛でていたニンフにそっくりであった。
酷似した高嶺の花
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