ここはエリシオン。神々と選ばれた者しか訪れることが出来ない楽園。悲しみや苦しみはなく、穏やかに過ごすことができる場所。ニンフが踊り、歌い、優しさの集まる所。そこには似合わない絶叫が響いた。ニンフは動きを止めて悲鳴の聞こえた方を見るが納得したのか微笑ましいとばかりに笑みを浮かべた。
「いやぁああぁあああああ来るなぁあああああ!!!」 「待ちたまえ!神に向かいなんたる無礼だこれは我が神殿で監k…仕置きを受けよ!」 「ちょ…っ、今監禁って言おうとしましたよね!?神様だからってそれは犯罪です!」 「嗚呼全く可愛いからとはいえ私にも限度がある。いい加減諦めて俺の胸に飛び込んできなさい!」 「それこそタルタロスだわ!」
悲鳴をあげたのは白銀聖闘士の美々だった。何故エリシオンに居るのかというのはアテナからの任務で今絶賛落ち込み中の冥王ハーデスになんとかして書類に判を押させる為だった。でも初めて来る人間が来てはならない場所に緊張からか地図があったのに迷ってしまったのだった。困った美々の元に話し掛けたのは人間を塵芥と豪語した死の神タナトスだった。
「アテナの聖闘士ごときが何故エリシオンにいるのだ」 「…女神から冥王様に書類をお届けに…」 「ハッ!人間にこの美しい楽園の土を踏ませるとはなんて小娘だ」
苦虫を噛み締めるようにタナトスは地上に視線を落とす。それだけでは苛立ちは収まらず平手打ちを美々に叩きこんだ。倒れる美々、宙を飛ぶ仮面。素顔を晒してしまい顔が真っ青になる、だがそれはタナトスも同じだった。
「……美々?」 「え、なんで私の名前を…?」 「お前、本当に美々なのか!ヒュプノスと共に神話の時代よりずっと探していたのですぞ…嗚呼我が姉上!」
…姉、上?双子神に姉が居るなんて聞いたことないんですけど。しかも、似てないから。てか私人間だし。
「人違いです」 「俺が姉上を間違えるわけがない!」 「どんな自信だよ」
そんな私の言葉なんて神であるタナトスは都合よくスルー。珍しくキラッキラさせた瞳とわきわきする指…え。
「姉上!ヒュプノスに見付かる前に我が宮殿で永遠に…!」 「ちょっと物騒なこと言わな…え、その目マジ?やだ…いやぁあぁあぁあぁああぁあ!」
そして冒頭に戻るのだった。追いかけっこはいい勝負だったが流石長い時を過ごしていた(星矢曰く二流の)神様は私を上手い具合に追い込んでいき、いつの間にかタナトスの神殿の壁にまで追いやられていた。
「さあ美々…!」 「お、落ち着いてタナトスさん…っ」
わきわきしてる手が怖い…っ!思わずぎゅっと目をつぶる。少し経ってもなにもされていなかった。唯一、ぐわあぁんと金属をぶつける音がした。そっと目を開けるとタナトスにそっくりな金髪が横笛を手に微笑んでいた。笛の端に付いている赤いものは予想がつくので見なかったことにする。
「姉上、お怪我や貞操は大丈夫ですか?」 「(てっ…?!)……大丈夫、です」 「それは何より。よくぞ我らの元に帰ってきて下さった」
血の滲む笛を放り投げてヒュプノスは私をそっと抱きしめた。…姉、ってのはともかく普通な対応の神様に感動を覚えた。
「さあ、私の元で永久に共に…」 「やっぱおまえも同じフラグか!」
第二ラウンドはすぐに始まった。そして意識を取り戻したタナトスも直ぐに加わり三つ巴のような状況はアテナの小宇宙が助けてくれるまで結構続いたそうだ。
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