「――――以上をもちまして、第46回来良学園卒業式を終えます」



教頭の言葉が体育館に響く。卒業生一同が退出する中に私は含まれていた。――終わってしまった。なにもかもが。私は最後にあの人を、折原臨也を思い浮かべた。…折原臨也は私の好きな人。いつも静雄君が喧嘩をしているのを学校から眺めていた。ニタリ、と意地悪そう笑いながら。狂気、だと思う、でも少なからず私は惹かれた。心をまるで握られてえぐられたように軋んで痛んだ。ぼんやりしているとドーン!と物凄い音が鳴り響いた。


「いーーーざーーーやーーー!」



あ、静雄君だ。追いかけられているのはあの人。短めの学ランをなびかせながら正門へと駆け抜ける彼。私は、それを見ていることしかできなかった。もう伝えられない。早咲きの桜がひらりと散った。私の涙を見ていたのは、桜の花びらだけ。



好きだったのにな、臨也君…」



小さく呟いた。新羅君がこっちを見ている。口パクで「美々前移動してるよ」と教えてくれた。慌てて頷いてから前に進む。新羅君は何か言いたそうだったけど無視してもう一回だけ正門を見る。遠ざかる黒い影。…さようなら、でもまた逢いたい。私は前に向かった。桜はまだ散っていた。







「――――――――あ、臨也かい?今日も見事な走りっぷりだったね!ん?本題?………本当に彼女に伝えなくていいのかい?……………え、その方が楽しいから、って…ホントキミって嫌な奴だなー僕は知らないからねー」


受話器越しに聞こえる乾いた笑い声を遠ざけるために通話を切った。新羅は携帯を閉じながら可哀想な美々を思い描いた。目立つような子ではないけど可愛かった。そんな女の子があの臨也を好きになるなんてね…。もっと言うならば特に臨也とは接点もなかった。けれども相思相愛。でも相手が悪かった、あの人間のみが好きな、愛している折原臨也だという事。例え愛しい人間にだって彼は自分が楽しむ為に最大限に利用する。彼女を哀れみながらもこの最後はどうなるのか、実に楽しみだ。小さく笑いながら新羅はマンションに帰宅するため、校門を出た。臨也だけじゃない、僕も彼女も狂っていると思いながら。