教皇宮から降りてきたマニゴルドに「デジェルをなんとかしろ」とだけ言われた。…一体あいつに何が?俺、面倒なこと嫌なんだけど。反論する前にマニゴルドはとっとと天蠍宮を抜けてしまった。くそっ、あの蟹め!…なんとなくあの蟹はげんなりしてたなあと思いつつ仕方なくあいつの、デジェルのいる宝瓶宮へと向かうべく石段を上がった。宮へ着いてすぐに異変に気付いた。…寒っ。…酒臭っ。珍しいなあ、あの真面目なデジェルがこんな真昼間から酒を臭いがプンプンするくらい浴びるように呑むなんてよ。鼻を押さえながら先に進むとぐでんとしたデジェルが机に突っ伏していた。

「おいどうし「かかかカルディア…!私は一体どうすればいいのだ!?」えええ…とりあえず凍気しまえや」

デジェルの話を聞く前に指先が凍っちまうじゃねえか。少しだけ凍気がなくなりウォッカを一気に呑んだ後、デジェルはシクシクと涙を流しながら話し出した。

「私の宮で仕えている美々という者がいるのは知っているな?知っているだろう。その美々が今度からマニゴルドの巨蟹宮に異動してしまうことになったのだ…!私のこのピュアハートはもうブロークンだ…カルディア!お前から教皇に申し開きをしてくれ、頼むそうしてくれ。してくれたら私はいくらだって脱ぐぞ」
「色々言いたい事はあるがとりあえず俺の前で脱ぐなよ」

はあ、だからか。たしかにこいつは何度か美々、という女の話を持ち出していたな…。だがそこまでショックだろうか。同じ聖域、しかもほんの少ししか離れていないのに。あの女好きのマニゴルド、だというのが少々危険だが…。今度はテキーラを1杯煽ると、ぐでんと机に倒れ伏した。

「あ、の…デジェルさんいますか?」
「ん?いるけど…って、もしかしてお前が美々か?」
「はい、貴方は蠍座のカルディアさんですよね?デジェルさんは…それよりこのお酒の臭いは…」

そこで漸く酒の臭いを撒き散らしていたのが探していたデジェルと気付きびっくりする美々にカルディアは苦笑を浮かべた。

「悪いな、デジェルは今心がくじけてる。俺が言っておく」
「は、はい…。あの、異動の件ですが無くなりましたのでまた明日からもよろしくお願いします。とお伝え下さい」
「「!!!!」」

無くなった、という言葉に反応してデジェルが飛び起きた。

「ほ、本当なのか美々…」
「はい!私はデジェルさん以外に仕える気はありません」

よっぽど嬉しかったのか、デジェルは立ち上がってすばやく(光速)移動し美々のところへ行き抱き締めた。

「で、デジェルさん!?」
「本当に、よかった…」

きゅん、と美々からそんな音がしたように思えたカルディア。…酒臭く、ないのかよ。つーか俺がいること忘れてねーかこいつら…。ま、デジェルが幸せそうだしいっか。そのまま蠍は退散することにした。2人だけになった宝瓶宮、無言を破ったのは美々からだった。

「これからも、よろしくお願いしますね?」
「勿論だとも」


これは不器用な2人がほんの少しだけ近付けたお話。