漆黒に溶け込むかのようにミーノスはその路地裏を歩いていた。慣れ親しんだ冥衣(サープリス)ではなく、ただの黒のスーツ。輝く銀糸を揺らしながら彼は暗闇を進む。前髪の奥に隠れた瞳はただ前を、獲物を狙う鷲のように逸らす事はない。漸く辿り着いたのは、ポツンとある小さな公園。深夜なのにギィ、と何かの音がする。口元に笑みを浮かべながら入ると1つしかない遊具であるブランコが女を1人乗せて揺れていた。何処にでも居そうな、だが危うい雰囲気を持つまだ少女から抜け切れていない女。ミーノスに気が付いたのか閉じていた瞳を開けた。―――赤。

「…へェ。三巨頭の1人、天貴星 グリフォンのミーノス直々のお迎えかァ」
「お戯れが過ぎますよ。毎度貴女を捜索させられる私たち冥闘士(スペクター)の身にもなって下さい」
「ははっ、だから君か。そこいらの冥闘士じゃあ隠した小宇宙(コスモ)を感じられんだろうからな」

笑いながらぽん、とブランコから飛び降りる。普通の人なら有り得ない、ほぼブランコの漕げる可能な上から。はあ、と溜め息。

「それもですけどね。私なら貴女が逃げないとパンドラ様が踏んだんですよ」
「…まァ、あのお嬢ちゃんにねェ…参ったよ」

両手を上げ降参を示すとミーノスは上品にクスクスと笑った。貴女らしい、と一言添える。不機嫌そうになる。

「まるで私が君を好いているみたいじゃないか」
「違うのですか?」
「嗚呼もう…調子狂うなァ」

そんな皮肉れながらもぎゅっとミーノスに抱き着く彼女、緩めた口元を隠しながらぽんぽんと背中を叩く。嗚呼なんでもう少しおしとやかで逃走癖がなかったら!それを言えたらいいのですが言ったらきっと、「聖域(サンクチュアリ)側に寝返ってやる」と言われるのだろう。…本当に痛い所を突く天使様だ。

「ほら、帰りますよ」
「はァーい!タナトスとヒュプノスとお茶したくなっちゃった」


ふとミーノスは抱き上げた彼女の額を見ると双子神の名前に反応したかのようにぼんやりと五芒星と六芒星が見えた。顔をしかめる。これが、あの双子神とこの天使を結び付けている。だが皮肉にもこの呪がミーノスと彼女も結び付けているのだ。そうしないと彼女は戻ってしまう。それだけはどうしても避けたい。

「ミーノス…?」
「愛していますよ」
「何を突然に…ふふ。あァ私もだよ」






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とは言っても敵だが。そして長編ヒロインのIF話です。時代も無印です。