静かに、本当に静かにシリウスは眠っていた。私にはまるで死んでいるようにみえた。ジェームズと、リリーのように。
「シリウス!シリウスシリウス…!起きてシリウスっ」 「……ん、ああ?なんだよ美々。寝てたんだぞ…って、おまえ…」「シリウスシリウス…お願い…わたし、を置いて、かないで…」
ぽろぽろと頬に大粒の涙が流れる。まだ15年も前のことがトラウマのようだ。あれ以来、私は精神が不安定なようで魔力も安定していない。ただでさえ少ない魔力。これでは騎士団で使ってもらえない。必死になって魔法を勉強し直した。何年も修行にも出た。リーマスが見つけにきてくれた頃には私は30を越えていたし、ハリーはホグワーツに入学していた。シリウスにはそれから少ししてから再会した。あの時は本当に嬉しかった。そして、また大切な人を失わないために私はシリウスの傍を片時も離れなかった。知っている。それがシリウスにとってはうざったるいことも、この屋敷から出たいことも。シリウスは泣きじゃくる私の背中を摩りながら言葉を選ぶようにゆっくり語りかけてくれた。
「…なあ美々。覚えてるか?」 「…?なにを、」 「まだ俺たちがホグワーツに居た頃…一度俺、おまえに告白しただろ?」 「………あ!」
''ずっと、傍にいたい''
頭を優しく駆ける言葉、私はそっと暗闇色のシリウスの髪に触れた。つい最近私が整えたので若々しく見える。(ここだけの話、身なりを整えたシリウスは最強だ。)ふと子供っぽい笑みを浮かべてシリウスは私を引っ張って胸に閉じ込めた。
「おまえは俺がおまえを煙たく思ってるとか考えてるけどな、違うからな」 「…うそ」 「まだ、俺の気持ちは変わってねえ。アズカバンに居た時も、ずっと」
かちりかちりと部屋の時計の音が酷く鮮明に聞こえた。息を呑む。
「……わたし、…っいいの?」 「おいおい、悪戯仕掛人屈指の頑固者が今さらしおらしくすんな」
にいと笑うシリウス。そうだ、私はなんでこんな弱かったんだろう。きっと大切な2人が死んでしまったことで怯えてしまったのだろう。
「またあの楽しかった日に、戻ろうね」
世界一優しくて悲しい魔法を貴方に
それはシリウスに、そして私自身に言い聞かせた言葉。
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