静けさを守る真夜中に閃光が走った。それを合図にするかのように銃声やガラスの割れる音、悲鳴、呻き声が辺りに広がった。悲しげにその光景を見るミルキィブラウンの髪の青年は眉間に皺を寄せながらもその抗争の中に自分の身を投じようとした。しかし自分の中の超直感が逃げろと告げ、無意識で身体を捻ってその場を後退った。自分が足を投げ出して座っていたビルの角には銃弾の跡と煙。危な…!振り返ると女が銃口をこちらに向けながら近付いてきた。忘れもしない、彼女…。

「どうして、君がここに…っ」
「馬鹿な事言わないで」

にっこりと微笑んでから彼女は言葉を吐いた。

「あなたの敵だからよ、沢田綱吉!」


***


血みどろな中に彼女は立っていた。服はボロボロ、頬には誰の者か、ましてや自分のかすら分からない血が付いて、足の傷からはどくりと熱い血が流れ止まらなかった。意識は朦朧としていながらも片手に握る拳銃を放そうとはせず、目の前の敵を的を外さず撃ち殺していた。辺りに静寂が戻った時に漸く部下の救出にきた獄寺の目の前には血の湖の中に立つ女を見て顔を真っ青にさせた。彼女は、自分の敬愛するボスの愛する女性だから。人の気配に銃口を向けるも自分の仲間だと気付きゆっくり腕の力を抜く。安心したのか目を閉じ身体を赤の中に叩きつけるようにして意識を落とした。獄寺が駆け寄るよりも先に動く者がいた。―綱吉だった。その顔は彼女が生きていてよかったと思う反面、こんなにもなって敵を殺し続けた彼女に対する懺悔からか複雑そうに顔を歪ませた。

「俺は女一人守るどころか傷付けてばかりだ…」

小さく独り言のように呟いた言葉は何よりも重く、獄寺は顔を背けてしまった。意識を取り戻した彼女は目を開けてそっと動かすのもままならない手で綱吉の頬に触れた。怪我をしていないことが分かるとふわりと微笑む。ぽたり、綱吉の瞳から溢れた涙が鼻先に落ちた。それでも微笑みは絶やさず、よしよしと子供をあやすように頬を撫でる。こんな状況でも、幸せを噛み締めた二人がそこにはいた。そこいたはずだった。


***


「昔の事でも思い出していたのかしら?」

暗殺者の声に意識をそちらに向けた。銃口は自分の心臓を狙ったまま。…危ない、昔の彼女の前だからといって、今敵対している人間の前で注意を怠っていた。これを見ていたらきっと、リボーンは怒って蹴りを食らわせるだろう。

「懐かしいよ…。死んだかと思ってた昔の彼女に会えるなんて」
「私は死なない。敵を殲滅させるまでは」

無表情のまま、彼女は更に近付いてきた。暗い中ふと目を凝らすと彼女は泣いていた。しかし攻撃しようとする態度は変わらず綱吉を狙っている。一瞬。素早くグローブに炎を点し飛んだ。すぐさまガアンと発砲してきたが避け、反撃をした。腕がいいのか、全速力で空を飛ぶ綱吉の頬に弾丸が掠った。心臓がばくばくする。そうしている内に勝敗はついた。勿論沢田綱吉が優勢だったのだ、拳を彼女の目の前に突き出した。カランと拳銃が下に落ちる音がした。

「…」
「これで終わりだ。…言い残すことはあるか?」

涙を流す綱吉を見て、同じように涙を流す暗殺者は彼の頬を撫でた。

「貴方に殺されるのなら、何も言うことはないわ」

炎圧が一気に高まって彼女は血化粧を纏いながらゆっくりと倒れ込んだ。





久しぶりの彼女の温もりがまた自分の手から離れて逝くのをスロウモウションのように感じた。「  、」名前を呼んだが言葉にならなかった。君はなんて優しいんだ、俺のために命を投げ出すなんて…。君が居なきゃ、俺が頑張る理由なんてないじゃあないか。涙がほろほろと流れる。いつの間にか抗争は終わっていたようで辺りはまた静寂に包まれた。唯一違うのは煙、血臭、君の命が散ったこと。





弾丸さまに提出、
ありがとうございました。