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私は目の前の光景が信じられなかった。全く今日はあの夢から始まってなんて一日なんだ!うーんと唸りながら長身を屈めて花を選ぼうとしている人物。それが黄金聖闘士に見えるわけもなく、だからおじさんもニコニコしながらそれを見守るだけである。そりゃあ、聖衣を着ていない、とかもあるけどさ。それはないでしょ…蟹座のマニゴルドさん。耐え切れなくなって思わず声をかけた。

「あの、どんなお花をお探しですか?」
「!!?んあ、あ、いや…」
「お祝いですか、弔いですか」
「あー…、じゃあ弔いだ」

髪をガシガシと掻き視線を逸らしながらマニゴルドさんは言った。私は百合など白を基調に花を選んでいく。それをへぇ、と感心しながら見てくる彼。出来た花束を手渡すと満足げにお代を渡してすぐ帰ってしまった。

「…不思議な人」

そういうタイプには、見えなかったんだけどな。まあ、漫画ってその人物の一面しか知ることができない、ってだけなんだろう。捻くれていても死した人間を喪そうという気持ちがある、という事だ。私はほっこりした気持ちになった。おじさんもまだニコニコとしている。

「さっきの花束は素敵だったね」
「本当ですか?嬉しいな…へへっ」
「そうだ、今日はもうお店の手伝いはいいから村の市場でも見に行きなさい。人が賑わってて楽しいよ」

おじさんの言葉に甘えて私は街の村の中心で開かれた市場にやってきた。近隣の村々からも人がやってくるのか、沢山の人で賑わっていた。野菜、魚、果物、皿、人形、家財道具…。見たことないものも多くきょろきょろと辺りを見渡した。ふと視線を感じる、強烈な。注意深く辺りを見回すと向こうから黒がやって来るのが見えた。法衣を身に纏い沢山の人の中をするするとこちらに真っすぐ向かい歩いてくる。唇の端には笑みを乗せ、瞳は私をしっかり見ている。――あれはヤバい!迷うことなく背を向け私は一目散に逃げ出した。人の間を縫うように進む路地裏を通ろうと曲がり入ると誰かにぶつかった。

「あ、すいま…!!」
「漸く捕まえたぞ、熾天使ガブリエル」

死の神タナトスは嗤った。手首はしっかり握られ腰を引き寄せられる。吐息がかかるほどの位置に顔が赤くなる。それに気を良くしたのか楽しげにタナトスは後ろを見ながら言った。

「今世のガブリエルは可愛らしいぞ、ヒュプノスよ」
「そのようだな。我らの手で育てると思うと楽しみだ」

すぐ後ろから声がした。…振り向かなくても分かる、眠りの神ヒュプノスだ。ガタガタと震える、不思議そうにタナトスは震える身体を見つめた。

「何を脅えるのだ?お前は我ら神の使い、愛でてやるから安心しろ」
「まだ記憶などはないようだな。…まあ今日のあの小宇宙がなければ我らも気付かなかったがな」

今日?……バリバリ心当たりあるんですけど。ちょ、ガブリエルさん!貴女の言うきっかけってコレですか?!む、無理無理無理…っ!

「今の名は何というのだ?」
「……エレナ、です」
「ほう、名前も可愛らしいな」

こいつらこんなこと言って恥ずかしくないのかよ。日本人はそうゆうの免疫ないから無理なんですけど!

「さあ、エリシオンに帰るぞ」
「えっ、わ…私…っ」
「どうしたのだ?」
「行きま、せん…!」

その言葉にタナトスが不機嫌になった。ヒュプノスも何故だと無表情で問う。無言で私はタナトスに握られていない側の手首を見せた。それには花輪。アテナと私を繋ぐ証。そして今の危機から逃げる唯一の切り札。戦女神の雄大な小宇宙をその花輪から感じ取り顔をしかめる双子神。

「おのれ憎きアテナめ…花輪を通して加護をエレナに与えていたのか」
「これでは手出し出来ん。…またアテナに取られるのか」
「………まあ良い、まだ聖戦は始まっていない。ゆっくりお前を手に入れよう」
「俺はもう欲しいのだが…仕方ない。後1ヶ月くらい待ってやろう」

そう言い残して彼らは颯爽と消えていった。唇に熱を残して。……い、ま…キス、して、きた…?勝ち誇ったようなタナトスの顔が見えた気がした。

「…聖域側に助けて貰おうかな…」

関わりは持ちたくない、けどあの双子神といたらもっと危険な気がする…。私はとりあえず家に戻る事にした。1人だけの作戦会議をしよう。そういえば、水晶のブレスレットがあの双子神が居た時は無くなっていたが、いつの間にか付いてる…。



安寧を求む!





あら蟹座さんがいい人になってしまった/(^0^)\
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