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これは夢だ。と分かる時がある。まさしく、今だ。辺りは白、それ以外には何もない。否、あった。人…?それは6枚の雄大な羽を持ち、2枚は身体を、1枚は頭を包み残りの2枚で宙に静止していた。パサリ、と羽ばたく度に羽から鱗紛のように金の粉が舞った。美しい髪がはらりと揺れる。女は微笑んだ。

「早く思い出しなさい。力が暴走する」
「貴方…誰?」
「我は熾天使ガブリエル」

熾天使、それは天使の位で1番高い位置にいる者。そしてガブリエルは真理の天使と呼ばれるほど力のある天使である。イエスキリストが生まれると告げた告知天使でもある。威厳と慈愛が滲み出るようなお姿に思わず膝をついてしまう。それを面白そうに見つめるガブリエル。

「礼儀は良いようだが、お前は我である。自らに礼は必要ない」
「あ…私が…?てか、なんで私、この世界に…」
「歪みには歪みが必要なだけだ」

事もなげに言うが、彼女は世界を変えようとしているのだ。顔が真っ青になる。

「気にする事でない、神にも戯れが必要なだけだ。分かったかエレナよ」
「…ですが、聖戦は二百数十年後に終わらなければならないのですよ?」
「嗚呼、それは冥王の魂が朽ちなければ良いだけのこと。プロセスはなんでもいいのだ」

話しながらふわふわと楽しそうに指でくるりといくつもの小さな光の玉を創るガブリエル。フゥと息を吐きそれらをエレナの辺りに漂わせた。玉が身体に近付き、―――――入った。

「少しだけ手助けをしよう。だが、きっかけがなければそれは訪れぬ…逃げるなよ」

にい、と最後に笑ったガブリエルは少しだけ意地悪そうで、魔王ルシファーを思い出させた。


***


チュンチュン、と小鳥の囀りで目が覚めた。朝の眩しい光が窓から溢れる。隣のアガシャはまだ夢の世界のようだ。……今の夢は一体何だったんだろう?ユサユサとアガシャの身体を揺らしながら思う。ふと左手首に見覚えのない紫水晶の玉が9つついたブレスレットが付いていた。……え、何でも有りな世界すぎるでしょ。つーか熾天使?

「どうしろっていうのよ…」

途方のない話にため息しか出なかった。なんで戦いに参加しなきゃいけないの?死んだら私は帰れないじゃない。…もしかして、帰れないの?今まで考えないようにしていたことが頭を過ぎった。ふるふる頭を振る。ううん、大丈夫…大丈夫だと言い聞かせる。…そうだ、天使ならなんか力もありそうだから何とかなるって!少し早い鼓動を落ち着かせるため深呼吸をする。

「んう…エレナ?」
「おはよアガシャ、ご飯つくろっか」
「……うん、…」

低血圧のアガシャはもそもそとしながらゆっくり起き上がった。ぽけーとしたアガシャは布団から出ようとしたら、倒れた。バタン!…くぅ。寝息が聞こえてきた。

「……うそ、漫画じゃないんだからさ…」

いや、漫画だけどさ。





天使に触れる





ガブリエルについてはヒロイン設定に書いてあります。ちなみにこの時点で聖戦開始まで約1ヶ月です。
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