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ようやく辿り着いた教皇宮。はあ、と息を一息ついてマントを畳んでから私は教皇の間に入った。……本当に一般人の私が入っていいのだろうか。一番奥の豪華な椅子に教皇セージは座っていた。傍に寄りひざまづく。

「ここまでご苦労であった。村人であるお前には大変だったであろう」
「い、いえ…。あ、お申しつけのお花、こちらです」
「ほう、これは見事だ。アテナ様もお喜びになるだろう」

立ち上がって花束を差し出すと唯一見える口元が孤を描いた。そのまま礼をして立ち去ろうとするが肩を掴まれ振り向かされた。

「…?」
「君には大きな小宇宙がある。…どうだね、聖闘士にならんか?」
「わ、私に小宇宙?!」
「君も何度か感じたはずだ。無限の宇宙を、暖かい力、生命力…」

そう、ではあるが…。ゆっくり首を横に振った。私には傷付いてまで世界を守ろうというつもりはない。淡白な性格、といえばそうだが…あまり聖戦に関わりは持ちたくないのは事実だ。死は怖い、それだけ。この世界が嫌いとか、嫌だとかではない。きっと自分の世界でだって同じ事を思うのだろう。結局は、自分が大切なのだ。

「私には、女を捨ててまでアテナ様を、世界を守れません」
「……そうか、すまないな」
「いいえ…アテナ様と聖闘士様たちのご武運をお祈りしてます」

後味悪いまま私は教皇の間を出た。セージはこの教皇に物おじしない少女に少しばかり驚いていた。中々聖闘士ですら聖域を纏める教皇に意見するのは居ない。華奢なその後ろ姿に雄大な6枚の羽を見た気がした。そっとカーテンが開かれニケを手にしたアテナが近付いてきた。

「エレナはどうでしたか?」
「聖闘士にはならないそうです。……しかし、あの力…」
「やはり聖闘士とは違うようですね」



***


ロドリオ村に早く帰りたかった。何かが、身体を蠢く感覚がする。私は、聖域に居たくない…!

ううん、これは聖域に居たいと懇願しているんだ。

立ち止まると激しい運動のせいで胸が大きく上下するほど息が上がっていた。ハァハァと呼吸を静めようとするも、まだ苦しいと身体が叫んでいる。

「……私は、普通の人、だよね」

不安が思考を浸蝕する。その時勝手に身体が跳躍した。というより意識する前に身体が動いたのだ。少し離れた場所に着地するとさっき立っていたところはえぐれていた。

「!」
「なあんだ、避けれたのかよ」

建物の陰から現れたのは黄金の聖衣を纏った人。鋭い眼光が私を貫く。

「お前、ロドリオ村の奴だろ?なんでこんなとこにいるんだ」
「お花を、届けに…」
「花?嗚呼…例のねえ…」

納得はしたものの赤の爪はまだ私を狙ったまま。

「ならなんでさっきの攻撃が避けれたんだ?その小宇宙の大きさは尋常じゃないぜ」
「し、知りませんっ!私帰ります…!」

蠍の睨みに身体は竦んだが奮い立たせ走り出した。彼の言う通りだ。こんなに運動神経は良くなかった、自分の中から出てこようとする力も感じている。聖域だから、反応しているのだろう。なら、村にずっと居ればいい。私は弱者、聖戦を見守るどころかお話の片隅にも載らない程度で十分なのだ。

「私は、弱いんだから…っ」

やっと抜け出れた十二宮を見上げながら私は言い聞かせるように呟いた。



不安と前兆



エレナを襲ったのは寒いの苦手な淋しがり屋です笑
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