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「え!聖域にお花を届ける…?!」
「ああ、アガシャは他のところに配達に行ってしまってね…。教皇様からのお頼みだ、行ってくれるかい?」
「わ、分かりました」

まさかこんなに早く聖域に行くことになるとは思いにもよらなかった。私とおじさんは花を選びながら聖闘士について聞いてみた。

「聖闘士様って、どんな方たちなんですか?」
「皆さんお強くて、私たち村人を守って下さっているんだよ」
「強い…あ、この薔薇も入れたいです!」
「素敵な花束だ、教皇様もきっとお喜びになるよ」

私は初めてお世話した薔薇の1つを花束の中に加えた。出来たそれを満足げに眺める。…うん、上出来。それから道を教わり私は聖域へと向かった。


***


周りにはギリシャを思わせる建物、景色、人、聖闘士…。花束を抱えながらキョロキョロと辺りを見回した。本当に、ここは聖域なんだ…。今までいた世界ではない、誰も私を知る者はいない。そして、聖戦の行方を知る者も。私はなぜこの世界に来たのだろうか。単なる偶然?それとも…。そんな事を考えながらようやく十二宮までたどり着いた。見張りの兵の人に手渡そうとすると(物凄く)申し訳なさそうに教皇宮まで運んでくれと言われた。…!?どどどどうしてっ?!だ、だって一般人にこれはキツすぎるでしょ…。でも、逆らえるわけない。気合いを入れ直し私は石段を登り始めた。1時間が経った。運良く黄金聖闘士たちは誰も居ない。漸く半分過ぎた所で雲行きが怪しくなってきた。…困ったな、早くしないと雨が降ってきちゃう。筋肉痛を起こしそうな足を動かしこの不便で長い階段を登り続ける。人馬宮を越えた所でやはり雨は降ってきてしまった。花束をできるだけ濡れないように抱えて少し小走りをする。…そういえば、なんで誰一人黄金聖闘士が自身の宮に居ないの?可笑しくない…?それよりも花びらが散ってしまう…。

バサッ―――

視界が白なった。振り返るとキラキラと黄金に輝く聖衣、薔薇の香り。魚座の、アルバフィカ…。後ろ姿ですら美しく、気高い。思わず手を伸ばした。

「あ、あの…ありがとうございます…あのっ」
「私に近寄るな」

その手を拒むように堅い声が雨の中響いた。こちらを氷のような表情で見やるアルバフィカ。固まる私を確認してからマントを翻し階段を降りて行こうとする。………っ。

「待ちなさいよ魚座っ!」
「!?」
「身体に毒が流れてるとからしいけどその態度は失礼よ!'ありがとう'を言われたなら言うことがあるでしょう!?」

急に大声を上げた私に驚いて凝視するアルバフィカ。ずかずかと近寄る。背は勿論彼の方が高い、けど数段下に居るから丁度目線は一緒になった。花束をマントで包み濡れないように下に置き空いた両手で冷たく濡れたアルバフィカの頬を挟む。ピクリ、と肩を震わせた。

「……孤独は寂しすぎる、少しでも心を開いてみなよ…」
「君は、一体…」

アルバフィカはふとさっきエレナが置いた花を見つめた。一輪の薔薇…それだけに不思議な小宇宙を感じた。そして手首にある腕輪から感じる女神の小宇宙も。そうか、彼女が例の………。黙るアルバフィカを見てエレナは我に返り怒ってしまったのかと焦った。

「あ、すいません…!黄金聖闘士様に偉ぶってしまって…」
「気にするな、それより名はなんというんだい?」
「え……、エレナです」
「そうかエレナか……ほら早くお行き、花が萎れるよ」

そこで本来の目的を思い出しエレナは慌てて花束を抱え、マントを頭から被るとペこりと頭を下げて階段を再び駆け上がった。その後ろ姿をじっと見つめるアルバフィカ。その表情は穏やかだった。



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