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知と力こそが世界を統べると豪語したユニティにデジェルは愕然とした。あの心優しきユニティは、何処へいってしまったのだ。

「知と力だと…そんなもののせいで…お前は己を見失ったというのか…!!?」

一瞬ユニティが辛そうな顔をした。だがそれはすぐに消え去り神像の肩に立つユニティを中心に空にある海が荒ぶれた。

「その二つがそろって初めて主張できる己もある。所詮、外へ出ていけるよそ者の君に私の苦悩は理解できないのだ!決して…っ、ホーリーピラー!!」

神の力を使った技、海水が竜巻のように荒くれ回りデジェルとエレナを痛めつけた。

「ぐわぁあああ!」
「きゃあぁあーー!」

身体の傷だけでなく何故か頭までが痛い。

―神に逆らえないのが天使―

頭に響く久しぶりに聞く声。

「ガブリエル…!?」
―天使は神に従うもの。それが真理、どんなことにも逆らえない―
「だから、こんな相性が悪いのね…ッ」

―ここでお前に死なれては困る―


その言葉と同時に意識が無理矢理シャットダウンされた。身体は動かない、でも彼らの戦いは見える。

デジェルがオーロラエクスキューションを放った。神像を攻撃するのかと思いきや頭上の海を凍らせた。バキッと音がして氷の山がユニティを襲った。神の力を用いていたとしても元は石、呆気なく石像は壊れた。


「君と、そう約束したからだ」


彼らの大切な記憶、白鳥座にかけて誓った思い、それらが鮮やかに蘇る。

壊れた神殿、デジェルはなんとかセラフィナの元へとたどり着いた。いつの間にかエレナも動けるようになっていた。

「セラフィナ様…」

手を伸ばすデジェルに悲しくも告げねばならない、彼女はもう…。

「彼女は目を開けないわ」
「なん…だと…?セラフィナ様!?」
「無駄だよデジェル、姉様はすでに病で逝ってしまった」


悲しげな瞳に先程までの歪んだ小宇宙は感じられなかった。

「ただの風邪だったがブルーグラードの厳しい気候に衰弱させられたんだ…絶望だった…何もかも見失うくらい」

ブルーグラードしか知らない彼の小さな世界にとって、デジェルとセラフィナは太陽だった。優しい姉、外の世界を知るデジェル、それが希望であり、ブルーグラードを復興したいと願うユニティの原動力であった。その心の支えがなくなることは彼には絶望であった。だから力を欲した。世界が羨ましく、自分のこの生まれ故郷を怨んだ。

「やめろユニティこれ以上…」
「ありがとう。君に止めてもらえて良かった」

穏やかな顔だった。死ぬ覚悟のように思えた。声をかけたくても部外者である自分は蚊帳の外だった。ユニティがセラフィナに向かい合い手を差し延べた。光が集い小さな結晶がユニティの手の内にあった。――オリハルコン。

「…デジェル、これを聖域へ持っていけ。海皇自らが力を注いだ彼の分身とも言えるオリハルコン。滅亡したアトランティスを未だ海底で機能させ、遺体すらいつまでも瑞々しく保つエネルギーの結晶だ」
「ユニティ…いいのか?」
「…いいんだ、アテナ様ならばきっと地上のために正しく使ってくださるだろう」

そう言ってから私の方をチラリと見た。

「…君のことは詳しくは知らない、でも海皇に仕えていたらしい」
「ポセイドンにも…!?」
「そもそも天使は1柱だけに仕えることはない。だから君は…特殊なのかもしれない」
「…」

困惑が増えるばかりだった。ガブリエルに話を聞こうとも頑なに拒絶してきた。ハァとため息をつく。苦笑したユニティは私にも地上とブルーグラードを頼む、と言った。デジェルにオリハルコンを手渡そうとした瞬間、2人の間を蛇が擦り抜けた。

「海闘士風情が…なめた真似をしてくれたな…海皇の遺産オリハルコン、アテナの手に渡しはせん!!」
「パンドラ…!」
「ちょ、っとパンドラ…怪我は…!?」
「黙れ使えぬ下賎!何故オリハルコンを奪わないのだ!?」

矛先が私を張り飛ばした。倒れ込む私の身体にパンドラのヒールが食い込んだ。

「フフッ、ゾクゾクする程のエネルギーよ。アテナなどには勿体ない。ならば…こうしてくれるまでよ!!」

今度は矛先を落としたオリハルコンにと突き付けた。ヒビはいるオリハルコン、中の小宇宙、力が乱れた。ユニティの顔が真っ青になった。

「バカな、なんてことを…何をしたか分かっているのか?そのオリハルコンは海皇自ら力を注いだもの…それに傷をつけるなど……このままでは…」
「神の力が暴走する、わね」

ドクン、と後ろから脈打つ音が聞こえた。振り返ると目を開けたセラフィナが海皇の神衣を纏っているところだった。

「セラフィナ様!」
「馬鹿な…あの女から感じる雄大な小宇宙は!?一体何が…」
「とんでもないことをしてくれたな…!我が姉の肉体は長くオリハルコンの力を注がれ続けてきた…傷つけられたオリハルコンは姉を通じて海皇の力を暴走させているのだ」
「海皇ポセイドンは荒ぶる神、アトランティスだけでなく地上も滅ぼしにかかるでしょう…」
「くッ…地上をだと…!?ハーデス様を差し置いて勝手な振舞など…断じて許さん!!」

そう一喝してセラフィナへ攻撃をしようとしたパンドラを高波が襲った。水に逆らうことはできない、ましてや海皇の力も交じってそれらはかなり強烈な攻撃にとなった。

「きゃあぁー!」
「パンドラ…!!」

流されるパンドラを追いかけるため慌てて羽ばたかせた。強い流れの中、気を失ったパンドラを見つけ引っ張り上げた。でも水が重く、そしてパンドラの服が突っ掛かり引っ張りあげきれない。ふと周りを観察すると、いつの間にか神殿の奥から入口付近まで流されていたようだ。…そうだ、ここには…!

「ら、だまん…てぃす…ラダマンティス!!助けて…パンドラが…!」

声を振り絞った。彼はきっと生きている、そう信じて。何度も叫ぶうちに声がかれてきた。でも、止めることはしなかった。冷たくなるパンドラの身体が心配でならなかった。最後の力を振り絞った。

「ラダマンティス!主くらい…守りなさいよ屑!!!」
「お前に屑呼ばわりされるとはな…」

後ろから聞こえてきた声に私は漸く力を抜くことができたパンドラの身体をしっかりと抱くラダマンティスを確認し、私は流れの中に身体が沈むのを感じた。ラダマンティスが私の名を叫んだ。小宇宙でパンドラを優先しろと告げる。ガッ、と身体が石に叩き付けられた。肺の中の空気が一気になくなる。あ、目の前が…暗く…。意識が覚束なくなった。目を閉じようとした瞬間にザバッと何かが私の身体を流れの中から引っ張り上げた。ゴボゴボと飲み込んだ水を吐き出して目を開けた。そこにはいるはずもない人物がいた。

「…アイアコス?」
「ここにこさせて正解だったな…やっと面白くなってくれたな、エレナよ」

楽しそうに笑うアイアコスに驚きながらも生き延びれたことが嬉しく怠い腕を伸ばしそっと彼の頬を触った。目を見開くアイアコスに小さくありがとうと告げゆっくり意識を手放した。

「…本当に、読めないところが面白い」



荒神の鉄槌

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