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「エレナ、君はアイアコスと共にいけ。あぁ守人の件は他言無用だ」
「アローン…」
「………否、余はハーデスだ」

まるで言い聞かせるように彼は言った。私はあまりアイアコスに近寄りたくなかった。彼はミーノスのような紳士さ、ラダマンティスのような忠誠心はなく、ただ欲求を満たすか満たさないかで判断しているような気がした。冥王に従っているのもカルラ王がそれを面白がっている、からのように見える。

「で?お前はハーデス様に言われて此処に来たと?」
「……はい、アイアコス様」
「全く…ガルーダの元に天使を送り込むとは…どういうことよ」

つまらなそうにアイアコスは足を組み直した。それはこっちの台詞だ、と思いながら下げていた顔を上げた。

「隷属にしてはならん、だと…ではなぜハーデス様はお前をここに送り込む…監視か?」

ずっと自問ばかりしているアイアコスを見て少し驚いた。力のみで突き進むのかとおもいきや、ちゃんと考えているようだ。思考を沈めているアイアコスの元に右腕とも呼べる天孤星ベヒーモスのバイオレートが近寄った。

「アイアコス様、私はアテナ軍の偵察に行きます」
「そうか。…嗚呼こいつをラダマンティスのとこに連てけ」
「この、天使をですか…?」
「……どういう、こと…?!」

急な言葉にバイオレートも私も驚いた。不敵に笑みを浮かべアイアコスは立ち上がった。

「エレナ、だっけ。お前はもっと戦いに放り込まれるべきなんだよ。まるで自分は純白無垢みたいに汚れてないと思ってるが…その翼は血で真っ赤に染めてついにはどす黒くなるまで浴びないと飛び立てないのさ」
「…っ、」
「アイアコス様…」
「ほら、アテナ軍を減らしてこい。そうじゃなきゃあのガキ、殺すぞ」

あのガキ、それはきっと奏くんのことだろう。…彼の言うことをきくしかない。私はバイオレートのあとを追って漸く両脇に屍のいる悪趣味な部屋を早足で出たのだった。
だから私は知らない。彼がまだ眠りについている奏くんを屍の中に放り込んだことを。死者は生者に群がり、そして―――――

「…さて、奴は変われるのか?否、変わらないと、始まらないのか…」

アイアコスの声は小さく、屍たちの咀嚼音とうめき声で掻き消された。



飛ぶために


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