8


サーシャは消えたエレナの小宇宙をずっと探していた。地上に神経を集中させても優しい温かな天使の小宇宙は見当たらなかった。…まさか、死んでしまったのでは。嫌な予感を抱いたまま神殿を出て空を見上げた。

「な…!?」

目の前には有り得ない光景があった。何回もの気が遠くなるくらい転生したアテナの記憶の中にも見覚えはなかった。

大地が、空へ昇る…!?

ふと空へと視線をあげた。あっ!と思わず声をあげてしまった。……盲点だった、地上にばかり集中していて空に、ハーデスのいる空の巨城をちゃんと調べていなかった。微弱ながらエレナの小宇宙を漸く捉えることができたのだ。まさか、エレナはハーデス軍に寝返ってしまったのだろうか。それなら、私は……サーシャではなくアテナとして、彼女を討たなければならないのかもしれない。偵察に向かわせていた聖闘士の近づく小宇宙を感じとりサーシャは神殿へと戻った。シジフォスとシオンを衛兵に呼びにいかせ椅子へと深く腰掛けた。ニケをぎゅっと握り締め、不安をごまかそうとした。



***



靄の中にいるようだった。辺りは真っ白、身体を気持ち悪い何かが包んでいるようだった。嗚呼これは夢だ、と確信できた。何故だかは分からない。でもすぐ分かった。向こうからやってくる麗人のおかげだ。

「鳩が豆鉄砲を食らったような顔だね」
「…日本の言葉をよく知ってるね」
「博識な聖闘士がすぐ傍の宮だったから」

クスクスと笑いながら傍に来た彼は、会いたかった人だった。珍しい笑みに惚けていると目を丸くして彼は言葉を発した。

「…なんだ、嬉しくないのか」
「だって、これは夢なのよ?…………アルバフィカ」
「でもこれは私の意思だ。最期に魂を小宇宙を使って君の元に行くようにしただけだ」
「……なぜ」

アルバフィカらしくない、そう言うと更に笑みを浮かべてきた。

「君に会いたかっただけだ」
「それがおかしいんだよ。アルバフィカは正義を貫く人、こんな中途半端な私の元にはこない」
「君は正義の為に自分を偽ってるだけだろう?」
「だからとはいえ、こんな敵陣の中央に黄金の小宇宙は目立つし、私にマイナスになる…そんなこと彼はしないわ」

「…成る程。確かにな」

急にアルバフィカの顔が歪んだ。背が伸び顔が少し浅黒くなり、髪は金髪になった。

「貴方…サリエルね…」
「如何にも。お前が馬鹿でなくて助かった。流石に冥王ハーデスに紛したあの人間も天使の夢には入り込めん」

眠りの神々がいたらバレていたがな、と笑うサリエルに首を傾げた。敵…でないのか?

「貴方はどちら側なのか」
「天使は中立を守る存在だ。……それを見た目とはいえ片方を選んだ我等は堕天使に堕ちたも同然だろうな」
「ではなぜ…ハーデス側に…?!」

それに彼は何も答えなかった。段々サリエルの輪郭がぼやけていく。

「我等はこの戦いを見守るだけよ。履き違えるなガブリエルの意思を持つ人間、我等の役目を」

そのまま消えてしまった。靄…いや霧か?白が深まった。




地上と天空と夢

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -