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「うっ…」
「あ、奏くん!?しっかりして…!」
「…その…声…もしかして、エレナ?」

うっすらと目をあけた奏の前には以前とは異なる髪色をした、捜し求めていた相手がいた。思わず手を伸ばし抱きしめた。

「エレナっ!!探したんだよ…!」
「えっ!?」
「急に居なくなって…誰もエレナのことを覚えてなくて…」

少し声を震わせ、でも嬉しそうに奏くんははにかんだ。やっぱり…私は向こうでは忘れ去られてしまったのか。何となく分かっていた、あのガブリエルのことだから私が"ガブリエル"という地位をこなすために元の世界に戻ろることのできないよう退路を断ったのだ。きっと、奏くんも世界から忘れ去られたのだろう。それでは彼にも此処での役目があるのだろうか。ガブリエルは、あの時消えたのかと思っていたが…。奏くんはどうやって此処に来たのだろう?

「奏くん、どうやってここに…?」
「なんか急に声がして…運命に抗うとか…そうしたら事故って…いつの間にかあいつに捕まってたんだ…」
「声…?」
「クロノス、って…時の神?」

まさか、彼が1枚噛んでいるのだろうか。奏くんは信じてはいないようだ。

「ねぇ、此処が異世界だって知ってる?」
「異世界…?なにそれお伽話じゃあるまいし…」
「此処は聖闘士星矢の世界。昔のね」

目を見開く奏くんをただ見つめる、だがハーデスの暗い攻撃的小宇宙が辺りに暴風のように撒き散らされた。不意打ちで吹き飛ばされエレナと奏は壁におもいっきり身体を打ち付けた。

「っく!!…全く天馬星座テンマは何をしてるの…!?」
「ペガサステンマ?…星矢じゃなくて?」
「星矢の前の天馬星座だよ。此処はロストキャンバスの時代、つまり星矢たちが活躍するより二百数十年も前…」

驚く奏くんを一旦放って趣向をこらすと言ったハーデスにグランドクロスをおみまいした。だがそれも簡単に跳ね返されてしまった。聖域軍の映像にその攻撃が降り注ぐ。

「う、そ…」
「感謝する、仲間だと思っていた天使からの攻撃で死ぬとは報われない楽しい結末よ」

高らかに笑うハーデスに我慢できずにテンマが拳を振るう。だがそれはハーデスの剣が軽々と遮った。そう、冥王の身体に傷を付けたとは言え、所詮は人間。大きな差があるのだ。

「天馬星座!お前との因縁も…ここで幕だ」

振り下ろされた刃、目をつぶる。聞こえてきた音は金属音だけだった。それはテンマを貫くことはなく間に入った童虎の盾を砕いた音であった。

「相変わらず危なっかしいなテンマよ。またあっさり目の前で死なれてはたまらんぞ」

何処かで見たような景色だった。デジャヴュ、というのだろうか。……あ、アルバフィカの時と、似ている…?


思わぬ再会、戦いへ




気付かなかった。お話をほとんど忘れていること、奏くんの怯えた表情が私に向けられていること。


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