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ハクレイの陰腹からは血が滲んでいた。シオンがそれを見て声をあげるがハクレイは鼻で笑った。

「大した年月も生きとらんくせに死を急ぐとは生意気よな!」
「ハクレイ…」

力が剣を媒介して辺りを充満した。遠くから何か強い意志を持った力が集まってくる。現れたのは―――

「これは…」
「まさか…前聖戦の戦士たちを…」
「こんなに召喚するなんて…」

積尸気にしては規模が大きすぎだ。どうやら、彼は死ぬ気のようだ。

「…他愛もない…所詮は無力な死人の群れ…ようは再び冥界へとたたき落とせばいいだけの話だ!」
「いいやヒュプノスよ、人間にとっての二百数十年の執念!そう軽いものではない!」

戦士たちの魂が1つに集まる大きな力、小宇宙が空気を震えさせた。ヒュプノスへと積尸気転霊波が襲い掛かってきた。ヒュプノスは一瞬馬鹿にしたような笑みを消し、片手で攻撃を止めた。

「前聖戦の戦士たちが束になってもこの程度か…やはり人間!このまま儚く散らせてやろう!」

予想を超えるヒュプノスの力にハクレイは歯を食いしばった。どうやら、自分の魂をも転霊波に加えたいが小宇宙のコントロールがキツく、そこまで手が回らないようだ。

――ハクレイ、手伝ってあげる――

小宇宙通信を応用してハクレイのみに意思を伝える。驚いたような雰囲気、私はそっとヒュプノスから見えない位置、ハクレイの後ろに移動した。背中に掌をあてる。

―神に近い私の力を使うのよ、反動は大きい…―
―ふん、ヒュプノスに勝つためなら構わん―

変わる雰囲気、ヒュプノスは首を傾げた。…何か、おかしい。嫌な予感しかしない。そう、あの時と似ている。エレナを、否ガブリエルを失う直前に。あの時は気を抜いてしまった。まさかアテナが神の通り道まで追ってきて、ニケを我らに投げ、それがガブリエルに貫通するなんて…思いもしなかった。ふと前を見ると若き頃のあの人間が魂となり転霊波の中へと入ってきた倒れる本体、支えようとするエレナ。…1人の魂が増えただけで増す力に圧倒される。だがそれよりも信じられなかった。…何故、お前は人間に加担するのだ。

「フフ…そうか、お前はもう…」
「…」
「…執念だけで私に一撃届かせるとはな…やはり人間はどうしようもなく愚かだ…だが見事だ」

神衣が砕け、依り代の人間からヒュプノスの魂が抜け去った。耐え切れなかった依り代の身体が霧散した。転霊波となっていた魂は散り散りに去り、その内の1つがハクレイへと戻ってきた。人間が双子神に勝った瞬間だった。




神を上回る

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