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少年から抜け出したばかりの年の青年は行方不明になったクラスメイトの家の近所を回っていた。正確には"自分しか知らない"クラスメイトだ。絶対に彼女は存在していた、だがある日を境に彼女の記憶が皆からすっぽりと消えたのだった。家族からの被害届もない、学校での連絡もない。彼女の座っていた席はただの空席になっていた。だから彼は探した。彼女がいた痕跡があると信じて。だがそれらしきものは一切なく時間だけが過ぎていった。まるで自分の幻覚を探しているように思えたがそれは彼女への淡い想いで理性を保てていた。

―へえ、運命に抗える力を持つ者か。面白い…君もあの世界に飛ばそうか―

頭の中に直接声が響いた。驚いて点滅中の信号にも関わらず立ち止まってしまった。

「な、んだ今の…?」

―君をあの世界に飛ばそう…ゼウスからの小言がまた増えそうだがこんな楽しい戯曲は滅多に見れないからな―

「誰なんだよお前は!」

―我は時の神クロノス。さあ、あの少女同様足掻きたまえ…我を楽しませておくれ…―

神という存在、あの少女とは誰なのかと考えていた彼は横からやってくるトラックが見えなかった。漸く聞こえてきたクラクション、スローモーションのように運転手と目が合った。襲ってくるであろう痛みに備えて目をふさぐも一瞬の違和感とともに急な落下に意識はすぐに落ちてしまった。

また1人、世界から忘れ去られた。



***


「…?!」

ハーデスは急に現れた小宇宙の渦に筆を止め後ろを振り返った。また、ヒュプノスが来たのか…?アローンを押し殺しながら空虚を睨んでいるとその小宇宙は空中に歪みを形作りそこから何かを吐き出した。それは人の形をしていた。というか、人だ。だが先程の小宇宙の持ち主ではないようだ。渦と共に消えた小宇宙、嫌な予感がした。神話の時代に、数度感じたことのある偉大な、神の力。

「…まさか、クロノスか?」

とりあえず床に投げ出された男を爪先で仰向けにさせる。どうやらただ気絶しているだけのようだ。うめき声をあげ何かを呟いている。

「………エレナ……っ」
「……ふうん」

アローンは嘲笑った。餌が舞い込んできた。




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