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遠くから声がした。頭の上から聞こえてくる…。でも、動きたく、ない。それでも声はだんだん近付き大きくなってくる。…なんなんだろう。重い瞼を上げると急に眩しい光が目に入ってきた。…生きて、る?
「―――あっ、お父さん!この子目が覚めたよ!」
「…ここ、は…」
目の前を女の子の顔が覗き込んできた。茶髪、くりくりと大きな瞳、顔立ちは日本じゃなかなか居ないような…。
「あなた近くの森で倒れてたのよ?それをうちに運んできたの!」
「あ、なたは…」
「私はアガシャ、よろしくね!」
外国人…。ふと違和感を感じたが私は自分の名前をエレナだと言った。ぱちくり、とアガシャは目をしばたたかせた。
「珍しい名前ね…日本人?」
「そうだけど…、ここは日本でしょ…」
「えっ此処は聖域のお膝元の村、ギリシャよ」
ギリシャ…ギリシャ!?!?それよりもわたしはサンクチュアリという言葉に驚いてしまった。それは漫画の話ではないか…!嘘、有り得ない…!驚いた私に驚いたのか、部屋に変な空気が漂ってしまった。そんな中お盆を持ってアガシャの父親らしい人が入ってきた。にこっと笑いながらお盆の上に乗ってたコップを手渡してくれる。
「大丈夫かい、…ん?どうしたんだいアガシャ」
「お父さん…エレナ、日本人だって」
「おや、随分言葉が上手いんだね」
ぱちくり、と驚いたように微笑むとアガシャそっくりに目が垂れた。それから私に何処に住んでいるのかと尋ねてきた。…日本、だけどなんかギリシャにしては服装が昔すぎる、よね。星矢の時代じゃない、の?
「あ、の…今の魚座の聖闘士様はどなたですか…」
「アルバフィカ様よ!」
えっ、昔!?世界と時間を越えたって…どうして…。顔から血の気が無くなってくる。アガシャが心配そうに顔を覗いた。
「顔色が悪いわ、大丈夫?家はどこ、送ってくよ」
仕方なく首を振るとハッ、とアガシャは口元を押さえた。誤解してくれたのだろう、謝ってきた。父親の方も表情を曇らせた。ふと頭に重みが加わる。…撫で、られてる?
「そうか…。…何かの縁だ、うちに住みなさい」
「そっ、そんな…いいんですか?」
「それがいいわ!私、エレナみたいな綺麗なお姉さんが欲しかったの」
嬉しそうに抱き着いてきたアガシャにそっと腕を回した。…なんて優しい親子なんだろう。とりあえず、何とかなりそうです。それから数時間は興奮したアガシャが服を選ぶのに費やされた(…)。
「ああ!この服もいいな…どれにしよう!」
「あ、安くて動き易ければいいから…」
「え〜…あ、そういえばエレナは変わった服を着てるわね」
ちょこっとスカートの裾を引っ張られる。私服のスカートにニーハイとヒール、ボーダーのTシャツにカーディガンを羽織った格好、それが今の私の装いだ。…こんなの、普通なんだけどな。
「…ははは。あ、じゃ、じゃあアガシャと同じがいいな!」
「お揃い…素敵…色は黄色が似合うかも…」
買い物はまだまだ続きそうだ。
新しい日常へ