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ハーデスの閉じ込められた空間。そこに降り立つと早速筆を持ちロストキャンバスを書き始めているハーデス、否アローンがいた。急に現れた存在に驚きながらもそれがさっきのエレナだと気付くと顔を歪ませ止めていた手を再開させた。

「…ふん、お前は…」
「まだ、お話は終わってません…アローン」
「!!?」
「大丈夫、他の人たちには言わないから。それに今はヒュプノスたちの小宇宙を断ち切ってる…」

それを聞いて少しだけ警戒を解いたアローンは肩の力を抜いた。だが、顔は背けられた。エレナが首を傾げているとぽつりと、小さな声が発せられた。

「僕は君のことは気に食わない」
「…え?」
「偽りの、塗り潰された色の君に、興味はないよ」
「塗り、潰された…?」
「君の本当の色は、それじゃあないだろう?」

ガツン、と頭を鈍器で殴られたような衝撃だった。それはエレナの中の゙ガブリエル゙のことなのは明白だった。彼はそれを見抜いていたのだ。冥王の力か、もしくはアローンという心優しい人間の少年の洞察力か。言葉を失ったエレナをチラリと見てアローンは鼻で笑った。

「君が何故僕に話があるのかは知らないけど、真実の色を剥き出してから出直してきてよ。それまでは相手にすらしたくない」
「……分かった。私も、そろそろ選ぶ時だったんだ…」

今さら気付いた。自我がガブリエルに飲み込まれていたこと。確かに双子神や夢の四神たちは私を゙エレナ゙ではなく多くばガブリエル゙と呼んでいた。それが普通だと思っていた。洗脳、とまではいかないが気付かなかった自分にゾワッと鳥肌が立った。なぜ気付かなかったのだろう…?普段の゙エレナ゙なら有り得ない言葉や行動ばかりだったのにそれを疑う心すらガブリエルの、前世に感化されていたのだ。本来の゙エレナ゙として、目を閉じて考えてみる。水晶のブレスレットが熱くなり締め付けてきたが、それすらも小宇宙で抑え込む。「小癪な…!」と声が聞こえた気がした。…………答えは、決まった。エレナは空間の歪みからまたハーデス城へと戻った。目指すは城の上空にある、双子神の離宮。



***



ハーデス城に戻ると笛とハープ、竪琴の音色が響いていた。その音を頼りに進むとヒュプノスとタナトス、パンドラが3人で奏でていた。途中でパンドラの音が乱れたようだったが、演奏は程なく終わった。どうやら、テンマたちをタナトスの死の森で片付けるらしい。パチパチ、と拍手を送ると視線が3つこちらにきた。

「おお!漸く帰ってきたかガブリエルよ!」
「待ちくたびれたぞ。さあ、我等の離宮に行こうか」
「……分かりました」

そこで、決着をつけなければ。

自我
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