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「な…なんだ?ここはいったいどこなんだよ…!?」
「あの巨塔…まさか冥王軍百八の魔星を封じていた…」
「…魔塔封印の地、空間をつないだのか…」
教皇はここでハーデスの魂を封印して聖戦を終わらせようとしているようだ。にやりとハーデス、否アローンが笑う。
「余の魂か…お前たちは本当に愛すべき愚か者だな」
「―いいえ、そのような者たちにそのお言葉はもったいのうございます。ここは我らにお任せくださいませ―」
「…来たか」
エレナは東の空を見つめた。空間が歪み始め、その隙間から落雷がアテナを襲った。テンマがアテナを抱き抱え飛びずさる。首無しの馬車がアローンの後ろで停まった。
「突然お姿が見えなくなり心配いたしました。そのお心に未だ、人間アローンの未練があるご様子…ならばその未練、このパンドラが自ら断ち切ってさしあげましょう」
漆黒の女が馬車から降りてきた。瞳は冷たくも、アローンをしっかり見据えている。槍から電撃が放たれる。皆が呻き声をあげる中エレナはバリアを張り、雷撃からは守られた。しかし免れることができなかった聖闘士たちは痛みに膝をついた。
「さあハーデス様、馬車にお乗りになってくださいませ」
「あの女、パンドラ!」
「…世に邪悪を解き放つ、常に冥王の側で冥王軍を統括する女」
エレナの言葉にニヤリと笑うパンドラ。
「ふん…前聖戦の生き残りと天使か。その通り、私の魂は常にハーデス様と共にある。本来であれば器の少年の姉として私が守ら、お世話をする…それが私の存在意義。だが今生は思わぬ邪魔が入った!」
アテナであるサーシャ、アローンの妹を睨みつけた。憎々しい、そんな思いがこっちにも伝わってきそうだった。
「さすが、ゼウスの頭部より生まれた女神は小賢しいな」
「私は貴女に小賢しいと言われるような振る舞いはしたおぼえがありません」
「よくもぬけぬけと…」
髪を振り乱しカツカツとヒールを鳴らしながらアテナへと近付いていく。
「待てパンドラ!アテナ様へ何をするつもりだ!?」
「手出しは無用です。この方とは一度相見えねばならないと思っていました」
2人は対峙した。エレナは何故か苛々とした気持ちに襲われた。あのパンドラ、という女を見てからだ。
「女神でありながら人の胎内に宿り図々しくもアローン様の妹として生まれるとはな…。己を堕としてまでなりふりかまわず器の少年を監視するとはまるで卑しいこそ泥よ!」
「私は人として生まれたことを己を堕としたとも卑しいとも思いません。私にとってテンマとアローン兄さんと過ごした日々はアテナとして目覚めた今もかけがえのないものです」
「そうやってハーデス様のお心を惑わすのがお前の戦略か」
「戦略などではありません。私は……あのままアローン兄さんとテンマと人として生きてもいいと本気で思ってました」
女神らしからぬ言葉、パンドラは我慢ならないと怒りを露にした。「恥知らずな女神め!!」と平手打ちを食らわせようとした。だがそれは何かに拒まれた。――エレナだった。
「貴様…!邪魔をするのか!」
「黙れパンドラ!」
エレナが叫ぶ。急なことにアテナはポカンと2人を見つめる。パンドラは槍を構え苛々とエレナを睨んだ。
「関係ないお前が口を挟むな!」
「パンドラ、否人間よ。お前こそ冥王ハーデスの姉だからと図に乗るなよ」
「図に、乗るだと…貴様っ!天使だからと…きゃああっ!」
パンドラは言葉が紡げなかった。エレナがエンジェルフェザーを放ったからだ。
「もう我慢できない」
空間が歪んだ。先程は漆黒のようだったが今回の歪みは眩しいくらいの白だった。エレナはパンドラをその裂け目に引きずるとその場から消えた。残された者たちはただそれを唖然としてそれを見ていることしかできなかった。
傲慢なる女王