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まるで生気を失ったようだった。守護する者が居なくなった無人の宮の片隅にひっそりとエレナは膝を抱えて座り込んでいた。涙は流しきった、でも嗚咽がたまに口から発せられた。女官が食事を運んできても口にすることはなく、これには教皇も参っていた。いくらご飯を食べろと諭しても「はい、努力します」の一点張りで変わりはしない。これが1日目である、なら何日これが続くのだろう。教皇であるセージは溜め息をついた。もうすぐ夕暮れ、天馬星座の帰還を待つ中で嫌な空気が聖域に流れ出した。曇る空、結界が割れ時計塔に降り立つ漆黒。小宇宙の大きさはまさしく、神。

「…ハーデス、」

呟きは雷の音に掻き消された。身体にかかる重力のようなものが聖闘士たちを襲うが何故かエレナには効かなかった。そのまま立ち上がり外に出て、羽を広げた。ふわり、教皇宮を飛び越えアテナのいる更に上へと目指した。対峙する2人の神、倒れている射手座とそれを抱き留めている牡牛座。そこへ降り立つと視線が全て集まった。

「お前は…」
「ハーデス様、私はガブリエルの意思を持つエレナと申します」
「エレナっ、来てはいけません…!」
「エレナ…嗚呼そうか、双子神が執着している天使か」

興味深そうに瞳を細ませるハーデスは己の剣を取り出し、切っ先をアテナへと向けた。小宇宙が高まろうとした矢先、光が2人の間を駆けた。まばゆい光は人間の形を形成した、天馬星座の帰還だった。

「待ちくたびれたよテンマ」
「悪かったなアローン。約束どおりお前をぶっ飛ばしに帰ったぜ!!」
「やっと3人がそろったね」

切っ先を動かすこともなく余裕の笑みを湛えるハーデスはテンマの持つ数珠に目をやった。

「!その数珠は……」
「ああそうさ、お前ら冥闘士軍の不死を封じる数珠だぜ!」

聖域中から光が集まり数珠の玉1つ1つに封じられ黒く染まった。エレナは嗤った。

「…ふうん、さすが天馬星座ね」
「なあアローン、なんなんだよこの有様…」

テンマはあの優しいアローンが故郷を滅ぼしたり、ハーデスとして敵であるアテナ、妹のサーシャを殺してしまうのかと懸命に語りかけていた。どうか、元のアローンに戻るようにと。だがそれはハーデスの一言で叶わないものなのは明白だった。子犬がケルベロスへと変化しアテナと天馬星座を襲った。

「これは聖戦なんだから」

ほんの少しだけ、寂しそうに見えた。



冥王と相見える
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