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ざわめきが起こる。とうとう冥闘士たちがやって来たようだ。多数の小宇宙が聖域近くにまで来たのを感じた。その中でも1つ、一際強い小宇宙があった。

「教皇…!」
「分かっておる。もうアルバフィカを配置済みだ」


進言しに教皇宮に行ったが肝心のアテナは神殿の奥に行きハーデス軍が復活しないように結界を敷いているので身動きが取れず状態。体力と精神力を使うためあまり上には行くなと言われた。心配を余所に聖域の入り口まで彼らは進攻し、何人もの聖闘士を倒してしまった。いくつも小宇宙が霧散するのを感じる。

「――なんて、儚いんだろう」
「んー、なーに言ってんだ?お前、今マヌケな顔だったぞ?」
「っ!五月蝿いなあドS蠍私の勝手だから!」
「へいへい…ま、俺に厄介事を押し付けんじゃねーぞ」

面倒だしな、と言いながらカルディアは宮の奥へ引っ込んでいった。…不安だ。だって、アルバフィカが……。キラキラした優しい小宇宙が攻撃的に高まるのがここからでも分かった。物語通りなら…今日アルバフィカは、死ぬ。綺麗事かもしれないけど私は彼に生きてもらいたい。カルディアもいないし今ならそっと抜けだせるはず…。

「…どうして立ち塞がるの?」

「教皇からの命令だからさ。エレナを絶対にこの天蠍宮から出すな、と…」
「でも私は今すぐ行かなきゃ…!」

ははは!と見下すかのように笑うカルディアにイラッときた。だが次の瞬間、その端麗な顔から笑みは消え鋭い瞳から冷えた視線が放たれた。思わず息をのんだ。

「お前、信用されてないんだよ。第一天使なんて神話に出てこねぇような存在だ」
「!」
「ま、それでも出てくってなら止めねぇよ?カルディア様の針がお前を貫くだけだ」

カルディアの言葉が突き刺さる。信用、されなくて当然だとは思っていたけどそれを突き付けられると……本当に苦しい。

「……チッ、俺はこれから見回りに行かなきゃいけねぇ。きっかり2時間で戻ってくる」
「…え?」

じゃーな。背を向けヒラリと適当に手を振りながら天蠍宮から去るカルディア。思わず呆気にとられた。…もしかして、わざと…?カルディアの優しさに驚きながらも急がなければならない状況を思い出し、エレナは羽を広げ空へと飛び出した。その後ろ姿をカルディアは見つめていた。

「ふーん、様になってんじゃん」



***




下へと降りると薔薇の花びらがはらはらと辺りを舞っていた。三巨頭の1人、ミーノスの仕業だろう。小宇宙を辿ってロドリオ村の1番高い建物の上に降り立つ。…懐かしい。2ヶ月も経ってないし、聖域とは目と鼻の先にあるのに…。アガシャとおじさんは元気なのだろうか。ミーノスの小宇宙を目指しまた羽を動かすと2つ、仲間の小宇宙が傍にあった。1つは牡羊座、もう1つはアルバフィカ…。消えそうながらも奮い立たせる小宇宙は身体を震わせる。戦士の戦いに介入は禁物、それでもエレナは自分の身体を盾にするべくミーノスとアルバフィカの間へと降り立った。

「止めて!これ以上の戦いは私が許さないっ!」
「エレナ…!?どきたまえ!」
「嫌です!もうこんなボロボロなアルバフィカを見ていられない!」

「その羽…もしや双子神が捜しているという天使殿ですか?」

ミーノスの言葉にぴくりと肩を震わす。にいと笑みを深めるミーノスを見てアルバフィカはエレナの身体をシオンのいる方向へと押し飛ばした。急なアルバフィカの行動に驚き受け身を取れなかったエレナを支えるシオン、傍に走り寄るアガシャ。

「エレナ…だよね…?」
「アガシャ…」
「2人は離れていろ、ここは危ない」
「おっと、それは許しませんよ。双子神は貴女様を待っているのですからね」

近寄るミーノスの前に立ち塞がるのはアルバフィカだった。2人の小宇宙がぶつかり合う。止めて…嫌だ嫌だ嫌だ!風圧から守ってくれるシオンを押し退け手を伸ばすも届くわけはなく、アルバフィカが膝を付くのが見えた。

「もはや魚座は精も根も尽きたようです。次の相手は牡羊座、君か?」
「いいやミーノス、己の胸を見るがいい」
「何…」

エレナはアルバフィカに駆け寄りヒールやハートレスサークルなど回復系の技を使うも大量の血液を放ったアルバフィカの顔色は青白いままだった。

「しっかりしてアルバフィカ!」
「な、ぜここに…?」
「喋っちゃダメ!」
「…何泣いてるんだ…?」

え、と左手を頬にあてると冷たい雫に触れた。……無意識に?小宇宙が小さくなる。羽を出してさらに力を注ぎ込んでも小宇宙は回復しなかった。

「だめ…諦めちゃ…だめ…っ」
「……見ろエレナ、薔薇が美しい…君と、見れて……よかっ、た…」

小さく笑みを零しとアルバフィカは瞳を閉じた。まるでスローモーションのように地面に倒れ込む黄金に包まれた身体。いつの間にかミーノスの方も事切れていたようで村に静けさが戻った。シオンが近寄る。声をかけてきたような気がしたがそれよりも動かない彼から目が離せなかった。

「そ、んな……」
「…エレナ」
「いやぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!!」

小宇宙が爆発した。慌ててシオンがまたクリスタルウォールを敷く。だがそれも揺らめき崩れそうだった。シオンはアガシャを守りながら防御壁を作るので精一杯だった。エレナの暴走は収まるどころか更に強まっていた。…このままでは村が!絶体絶命のシオンの目の前を赤い光が走った。それはエレナに当たり「うっ!」と呻き声を出してそのまま倒れた。振り返ると黄金聖闘士のカルディアが楽しそうに笑っていた。

「全く世話のかかる嬢ちゃんだ」



さよなら、美しき人


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