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「お久しぶりですエレナ会いたかったですよ!」
「私も会いたかっいだだだだだっ!」
「十二宮突破お疲れ様でした私は別に平気だと思ったのですがセージと相談してこうなったのです…すみません。嗚呼彼らは親しみをこめて呼び捨てで構わないそうですよそれとシジフォスにまだ飛べないと聞きました私が手助けしましょう大丈夫貴女なら直ぐに飛べますよ!」
「ああああアテナ…サーシャ痛い…ハグが強烈だよ私…ぐえっ」

女として物凄く残念な呻き声を聞いて漸く自分が絞め殺そうとする勢いなのに気付き、まあと優雅に微笑みながら力を緩めるサーシャに意識が遠くなりそうになった。…サーシャってこんなに喋る子だったっけ?さっきの長台詞を一気に言ったからね…。呼吸を整えてから昨日思ったことを言ってみる。

「跳べないのはまだ完全に思い出してないから…?」
「いいえ、おそらく小宇宙を使いこなせていない為なのが1番大きな原因だと思います。…後はコツと感覚さえ取り戻せればすぐにこの青空を飛べますよ」

ふんわりと笑うサーシャは年相応の可愛い女の子だった。そうだ、この子は女神でもあるが、人間の女の子でもあるんだ。重い重圧を1人で背負ってるんだ…。せめて、私の前だけでも普通でいてもらいたい。

「サーシャ、じゃあ練習に付き合ってくれる?」
「勿論です!スターヒルで練習したらどうでしょうか…?」

いや、かなり危ないから。私は丁重にお断りした。


***

サーシャに飛ぶ練習に2、3日付き合ってもらい漸く満足に飛べるようになった。…ご、5mはなんとか…。それでも急加速や急降下、ブレーキなどはすいすいと出来るだけましなのだろう。サーシャに「おめでとうございます!」とお決まりのようにタックルを食らった。教皇の哀れみの目が私を更に惨めにした。

「そういえばエレナよ、髪色が少し変わったのではないか?」
「…そうなんですよ教皇、朝起きたら茶色っぽくなってました」
「きっと小宇宙が使いこなせたので本来の色に戻ったのでしょう」

赤みを帯びた茶黒っぽい色になった毛先を触る。…小宇宙ってこんな所にまで影響が出るもんなんだ。そこにシオンと童虎がやってきた。因みに今居るのは教皇の間だ。

「アテナ様、教皇。偵察に行っていた者が帰ってきました」
「分かりました。通して下さい。エレナ、貴女も熾天使として同行していただけますか?」
「勿論ですアテナ」

中に入ってきた白銀聖闘士は3人。私は愕然とした。もっと沢山の聖闘士を見送っていたからだ。

「偵察に出て生き残ったのはお前たちだけか。よくぞ無事に戻ってきてくれたな、白銀聖闘士たちよ」

彼らが傷付きながらもひざまづき報告をする。

「申し上げます。やはりイタリアへの冥闘士集結の情報は確かでありました。その地方は今や不可解な死が相次ぎ住人たちは恐怖に震えております」
「探索を続けた我々は森の中の大聖堂を見つけ冥闘士たちと交戦、1人残らず全滅させられることになりました」

全滅、という言葉にぴくりと全員が緊張を張り巡らせた。私はアテナを背に守るような形に立った。彼らが無理矢理操られていることは知っている、でも私という不純物がどこまで影響してくるか分からないからこれは予防線である。

「……全滅?」
「そう…全…滅…」

その言葉が終わるのと同時に彼らの攻撃がアテナに向かってきた。私とシオン、童虎が彼らの攻撃を跳ね返す。怪我をしていないか振り返ると悲しげなアテナの顔が目に入った。

「血迷ったか貴様ら!この力…白銀聖闘士のものでない…」
「お前たちいったいなぜこれほどの力を…?」

次の瞬間、白銀聖闘士たちの聖衣の輝きが黒くなった。纏う雰囲気も変わり始める。

「バ…バカな…白銀聖衣が冥界の宝石のような輝きを…」
「それは…まるで冥衣ではないか…」
「俺たちは最早アテナの聖闘士ではない…。生者でもない…冥闘士に殺された俺たちは冥王様の力で再びこの地上に蘇らされた」
「なんと…誇り高きアテナの聖闘士が冥王の軍門に降るか…」

教皇が歎く、ニヤリと彼らは笑う。

「冥王様は救いを与えてくださるとおっしゃった…もう2度と死の恐怖に苛まれることのない救いを…アテナの首と引き換えにな!」

飛び掛かる白銀聖闘士たちを見てシオンたちは小宇宙を高めた。

――アテナ…

「やむをえん!」
「行くぞシオン!」

――アテナ…我々は…


「童虎シオン!待つのです…!」


アテナの言葉は虚しくも届かずシオンのスターダストレボリューションと童虎の盧山百龍覇が彼らを襲った。苦しそうにもがき叫びながら地面に倒れた。黒い聖衣はボロボロになり、もう動けないようだった。アテナが駆け寄る。

「地獄の番犬座(ケルベロス)、御者座(アウリガ)!矢座(サジッタ)!」
「うう…アテナ…」
「しっかりするのです!」

アテナの、サーシャの頬を涙が伝い地面に落ちる。…彼らは死んでいるのだ、その後でまた哀れみをかけられるとはどんな気持ちなのだろうか。こんなことを考えていると知れたらきっと、黄金たちを含め聖域を敵に回しそうだな。

「死人となって操られる貴方たちの小宇宙を感じました。苦しかったでしょうに…」
「アテナ…アテナ…俺たちは本当は…」

最後まで言葉は発せられることはなく、白銀聖闘士たちの身体は砂へとなった。跡形も残らない彼ら、涙を拭うアテナに教皇とシオン、童虎が近寄った。

「アテナ、教皇。我ら2人に出撃の命をお与えください」
「自らの手で同胞を討たねばならなかった無念を…」
「どうか晴らさせて頂きとうございます」

悔しそうな顔で前を見据える2人に教皇はそれを許可した。目指すのは森に大聖堂を構える街。冥王ハーデスが、アローンが居る街…。

私は、どんな立場でこの聖戦を見届けたらいいのだろうか。



戦いは目前へ
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