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―天蠍宮―


1番来たくなかった宮に着いてしまった…。はあ、と溜息と同時に入り口を睨む。クスクスと笑いながら出てきたのはいつかの攻撃を仕掛けてきた奴。蠍座のカルディアだった。

「お前、天使だったんだな。あの小宇宙も納得だ、また勝負しようぜ?」
「嫌です」
「つれないなあ…ま、いっか。ほら、宮の中に来いよ。この前アルバフィカからくすねた薔薇の紅茶でもご馳走するから」

……え、ご馳走?あの、戦闘狂の、カルディアさんが?信じられない。ジト目で睨むとひらひらと手を振り不機嫌そうにケッと顔を背けた。

「この前の詫びだ、ほら俺の気が変わらないうちに!」
「は、はい」

少し間を空けながらも私はカルディアさんの後を追って天蠍宮の中に入った。彼のプライベートルームはほとんど何もなく、必要最低限のものしか置いてあった。

「…殺風景、」
「必要なものがないんだよ、別に執着もないし」
「でも、さすがに…もう少し生活感があった方が」
「生きてるだけでじゅーぶんだからいいんだ」

少し殺気のようなものをビシバシと感じたので話を中断させて私は紅茶を無理やり啜った。ふんわりと薔薇の香りのするフレーバー。…美味しい、さすがアルバフィカ印の紅茶。堅い表情が解れた私を見てカルディアさんもちょこっと笑みを浮かべて自分もカップに口をつけた。…黙っていれば、普通なののになあ。

「今、失礼なこと考えなかったか?
「いいえ全く」

…蠍の直感は恐ろしい。



―人馬宮―


つ、疲れた……。まだ使いこなせない小宇宙を無理やり引き出され、ましてや訓練だとスカーレットニードルを乱射された。カルディアさんから漸く解放され人馬宮に到着するのがだいぶ遅れてしまった。慌てて中に入るが誰も居ない。…え、もしかして痺れを切らしてどっかいっちゃったのかな?すると頭に声が響いた。

「久しぶりだねエレナ。私は人馬宮を守護する射手座サジタリアスのシジフォス。今は所用で磨羯宮にいる…そこに来てくれ、磨羯宮の守護する山羊座カプリコーンのエルシドと共に待っているよ」
「シジフォスさん…」

これが小宇宙通信!少しだけ感動しながらも次の磨蝎宮へと移動することにした。




―磨羯宮―


磨羯宮で待っていたシジフォスとエルシドは予想を超えるエレナのやつれた顔に驚いて思わず試練と言う名の組み手をしようという計画を中止させた。

「カルディアのせいか…」
「……、あいつは戦闘関する事には貪欲だからな」
「ほんと、大変でした…。皆さん個性的すぎるんですよ…」

傷を癒してくれる2人にお礼を言う。ぽん、と頭をシジフォスに撫でられた。

「ほんと可愛いなあ!優しくて素直で」
「しっ、シジフォス?!」
「あ、こいつはエルシド」

「…熾天使ガブリエルの力を持つエレナよ、磨羯宮を守護する山羊座カプリコーンのエルシドだ」

すっと手を出されたので握手をする。氷のような眼差しで見透かされそうな思いになる。恐れの中に一瞬頭の中に鋭い剣が浮かび上がった。

「剣…」
「!…分かるのか?」
「今イメージが…それが聖剣エクスカリバー?」
「我が右腕に宿りしはまだ未完成の剣よ、鋭さはまだ増す」

右手を見つめながらエルシドは自分に言い聞かせるように言った。シジフォスは困ったように笑いながらエルシドの肩をぽんと叩いた。

「すまないなエレナ、こいつは真面目すぎてな」
「凄い、ですね…自分をそこまで律するなんて」
「ははっ、そうだな。だがそれ故に見えないこともある」
「……、」

エルシドは黙って外に行ってしまう。あまり触れたくない話題だったのだろうか。

「自分を守る強さはあるかもしれない、だが他人に頼る強さがまだ足りないのだ」
「他人に頼る、強さ?」
「ああ、俺たち1人1人は強い。だが他人に頼り、命を預けることは勇気がいる」
「聖闘士に関係なく…か」

にこりと笑ってシジフォスはエレナの頭を撫でた。その心地好さにパサリと羽根が背から生えた。驚く彼はぱさぱさと羽ばたく白いそれを観察した。自分の聖衣には黄金の羽根、そして彼女には純白の羽根。まるで対をなしているように思えた。

「羽根で…飛べるのかい?」
「あー…、じ、実は…ちょこっとだけ…」
「……」
「……」
「…アテナに、相談してみなさい」
「そうですね…」

天使なのに飛べないのはちょっと…。あははと苦笑いを浮かべながら羽ばたくエレナは地面すれすれしか飛べず少し切なかった。シジフォスはエルシドのご機嫌を直す為に外に出た。嗚呼と思い出したように顔だけ柱から見せる。

「俺たちからは以上だ。次の宝瓶宮に行っていいよ」
「……はい、それじゃあまた」

一体なんだったんだ…。何を私に求めてたんだろ?




―宝瓶宮―


宝瓶宮に近付くと少しだけ空気がひんやりしてきたような気がした。中に入ると更に寒かった。これが凍気、なのだろう。

「よく来たなエレナ。私は水瓶座アクエリアスのデジェルだ」
「よろしくお願いしま…へくしょん!」
「嗚呼すまない…凍気がだだ漏れだったな」

そう言いながら毛布を1枚手渡してくれた。それを素早く自分の身体に巻き付ける。いつの間にか眼鏡をかけ、筆と文献を片手にキラキラした瞳でこちらを見つめる聖闘士がいた。…。

「君にはいくつか質問がしたい。…べ、別に自分が知りたいからではない、アテナ様の為平和の為だ」
「は、はあ…答えられるものなら…」

絶対この人自分が知りたいから興味津々なんだ…!

「ガブリエルと接触したのは?」
「……1ヶ月ほど前です」
「そういえばその頃、ロドリオ村で朝早くに物凄い小宇宙を感じたな…それが熾天使ガブリエルの力か」
「そうです…お陰で双子神に見つかりました」
「力はどうなのだ?」
「詠唱して具象化します…」

延々と続く質問。羊皮紙の上を素早く動く筆先、それを見つめていると眠気が襲ってきた。ぱちんと音がしてはっと前を見ると申し訳なさそうに笑みを浮かべるデジェルさんがいた。

「すまないな…。知に関することになると熱中してしまうのだ、カルディアにもこの前注意されたのだがな…」
「勉強熱心なのはいいことなのでは?」
「蠍曰く、のめり込み過ぎだそうだ」

当たりであるから反論もフォローもできなかった。今まで座っていた椅子から立ち上がりデジェルさんはこちらにと宝瓶宮の出口に誘ってくれた。それで終わりだと思っていた。

「さあ、次は技を見させてもらおうか」
「え、えぇえ?!」




―双魚宮―


「やはり時間がかかったな…あと1時間程で日没だぞ」
「アルバフィカ…だってあんなに個性的な10人を相手にしてたらこうなるって…」
「たしかにな」

ふと小さく笑みを零しアルバフィカは今日はこれで終わりだと教えてくれた。どうやら今日は教皇宮やアテナ神殿にはいけないらしい。…結界?についてセージ様とサーシャが内密の話だとか…。

「…今日はゆっくり休も…」
「そうした方がいい。明日はアテナ様の元に行ってもらうしな」
「サーシャのとこに…?」

頷くアルバフィカにエレナはなら早く寝なきゃと欠伸をした。…明日も疲れそう。



十二宮巡り3




ようやく十二宮突破!半日で登れたヒロイン、神業…いや天使技←
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