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―獅子宮―


獅子宮に辿り着く頃、エレナ疲れが溜まり宮に入る前に息を整えるために石段に座り込んだ。下を見下ろせば山々や緑、ロドリオ村、そしてさっき通ってきた宮が眼下に広がった。

「…綺麗。本当にここは聖域、なんだ…」

夢ではないのか、そう思うこともあった。1ヶ月程生活はしていたが実感が沸かなかったのだ。冷たい風が火照る身体を冷やしてくれる。風が心地好くて瞼を下ろす。風の中、いくつもの小宇宙がこの聖域を満たしている。その中でもいくつかは本当に光り輝き、大きな力を持っている。…黄金聖闘士と、アテナだろう。次の瞬間その中の1番近くに感じる小宇宙が急に力を発揮するかのように燃えた。驚いて立ち上がると背中にぐわん!と衝撃が走った。よろける身体。石段の下でなかったらかなり転げてたよ私…!恐る恐る背中を振り返ると黄金が見えた。…ま、さ、か。

「君がエレナだろ!?俺レグルス!獅子座のレグルス!」
「え、あ…、」
「早く来ないか待ちわびてたんだ!ほら、年も近いだろ?話したかったんだ」

にこっと輝く笑顔の似合う男の子だった。それに少し癒されたが次の言葉を聞いて私は顔を真っ青にした。

「よし勝負だエレナ!」

拳とともにライトニングプラズマをぶっ放してきた。勿論こんな傍にいたんだから簡単には避けれなくて、左腕をやられた。ヒリヒリとした痛み、腕を庇いながら私は大理石を強く蹴った。宙へ舞いレグルスに突っ込む。

「――グランドクロス!」
「っと!?うわすげー!まだ小宇宙が不安定なのに強いなあ…よし合格!」

私が渾身をこめた力を安々と空高くに捩曲げてしまうレグルス。膝をついた私ににっこり微笑むと小宇宙で左腕を癒してくれた。

「急にごめんな、天使の力が気になってたからさ」
「そうだったんだ…ほんとびっくりした」
「ははっ、ほら次は処女宮だよ!ちょっと変人だから気をつけてな」

ぶんぶんと大きく手を振って見送ってくれるレグルスに手を振り私はまた次の宮へと向かった。さっき癒してくれたおかげで疲れも少しなくなった。気合いを入れ直し上へと向かった。

レグルスはふうと小さく息を吐いた。掌を見ると火傷の跡。

「…あれでまだ修行1日目?凄すぎるな…」




―処女宮―


処女宮の中に入ると暗くて静かで、落ち着いた空気が流れていた。薄暗がりの中前へ進むと漸く見慣れた金色が目に入った。それは座禅を組んで瞳を閉じ、瞑想していた。金色の髪がサラリと揺れる。

「あ、の…」
「成る程、お前が熾天使ガブリエルか。内なる力はまだ発揮してはおらぬな」
「貴方は乙女座の…」
「私は乙女座のアスミタ。熾天使よ、君はどんな理でこの世界を導くのかね?」

急な問い掛けに面食らってしまった。戸惑う私にふぅ、と息を吐くアスミタさん。

「君は何も考えておらぬのか?愚かな幼きアテナ同様、有り得ない下界への転生で目が曇ったようだな」
「決めつけないで、……え?有り得ない下界への転生…?」
「…神話にお前の名はない。神々を裏切ったか、もしくは――」
「この世界の存在では、ないってこと…?」
「その小宇宙からして神に近い存在であることは確かであろう。だがこの世界に熾天使の存在を知る者はおらん。神、なら知ってるかもしれんがな」

頭を早く回転させる。…つまり、ガブリエルはこの世界では有り得ない存在?神の命で自身の生まれ変わり、転生者の私をここへほうり込んだ、ってわけ?

「迷う君は世界を変えられるわけなかろう。去れ」
「黙れ人間!我がまだ力を完全に操れぬからと愚考は赦さぬ!」
「!ほう、それが天使の化けの皮か…」

横暴な態度にカッとしてしまい大声を出してしまった。私の口から出る言葉はまるで、ガブリエルのような口調…。

「世界を変えれぬ?お前こそ変えたいのに変えようとしないではないか!」

小宇宙を燃やすと背に羽根が生えた。急激な小宇宙の燃え方にアスミタは結跏趺坐(けっかふざ)を解き警戒した。

「輝く御名のもと地を這う穢れし魂に裁きの光を雨と降らせん…安息に眠れ罪深き者よ―ジャッジメント!」
「カーン!」

いきなりの大技にアスミタは小宇宙を燃やした。珍しくピリピリとカーンが揺れた。…これがまだ力を出し切れない天使の力、か…。アスミタはヒヤリとしながら天魔降伏を放つがそれはエレナの羽ばたき1つで軌道を変えられた。波動と風が大きく処女宮や2人を包む。ハッとしたようにエレナが意識を浮上させた。

「えっ、…私いつの間に…!すいませんアスミタさん!お怪我はないですか?!」
「…あ、嗚呼大丈夫だが…」

そこで戦いになる前のエレナの言葉を思い出した。…たしかに諦めきっていた私に、世界を言う資格はないのだろう。だがこの力は…。アテナ、貴女は味方にしても敵に回しても恐ろしい存在を呼び寄せたようですぞ。そんな事を考えているとは露知らず、エレナは無傷のアスミタを見てホッと笑った。

「よかった…」
「…ふむ、まあ君の理は認めよう。次の宮に進むがよい」

そう言ってアスミタは宮の奥へと消えていった。置いてきぼりを食らったエレナは急なアスミタの態度の変わり様に唖然としながらも少し太陽が傾き始めていることに気付き早足で処女宮を出た。



―天秤宮―

中に入ると1人の黄金聖闘士が青銅聖闘士と会話をしていた。2人はまるで兄弟のような親しげな雰囲気で話をしている。私が入ってきたことに気付いたのか2人がこちらを見た。

「おお、やっと来たか!待ち侘びたぞエレナよ」
「なあ童虎、この人誰なんだ?見たことないぞ」

……天馬星座テンマ。赤茶色の瞳を不思議そうに丸めて首を傾げた。

「紹介するぞ、こいつはわしの弟分のテンマじゃ。テンマよ、この子はエレナじゃ」
「よろしくね」
「ああよろしく!それにしても…」

まだ不思議そうに私を見つめるテンマ。私もその違和感に気付いていた。何か、近いものを感じたのだ。小宇宙が共鳴、しているとでもいうのだろうか。

「エレナは天使の力を持っていてな、アテナ様に尽力してくれるのじゃぞ」
「天使ぃ!?じゃあさっきから下の宮での小宇宙はエレナの…!?」

すごいなエレナって!とキラキラした顔で素直に褒めちぎるテンマに少し擽ったいものを感じる。私が頑張って体得したものじゃあ、ないから。これはガブリエルの力。

「わしからの力試しはないぞ」
「え、いいんですか?私を疑わなくて…」
「おぬしは綺麗な瞳をしておる、悪い奴でないくらいこの天秤座の童虎は分かるぞ」

ぽん、と手を頭にのっけてからわしゃわしゃと撫でてくれた。

「あと5つ、頑張るのじゃぞ?」

…………まだ5つ残ってるのか。はあとため息をつくと哀れそうにテンマが合掌してきた。



十二宮巡り2



天秤宮はただテンマと絡ませたかっただけという裏話←そして長い;
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