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あの中身の濃い1日からあと1日でタナトスが待つと言った1ヶ月になってしまう。勿論、私に名案なんて思い付く程の頭もない。聖域に匿って貰おうかと何度も考えたがすぐに止めた。たまにこの村に黄金を含めて聖闘士がよく通るようになった。噂だと冥闘士たちが魔星に導かれて目覚めているようだ。聖域に近いこの村も狙われるのではないかと警備してくれている。私はその間、何もせずただ朝起きてご飯を食べて、花屋を手伝いアガシャたちと遊んで、お風呂に入ってアテナ様にお祈りして寝るだけの日々。前にアテナであるサーシャに出会った丘に私は来ていた。少し風が冷たいのは早朝だからだろう。朝靄に包まれるロドリオ村は栄えた村ではないが美しかった。

「…決めなきゃ、なんだよね…」
「その言葉、待っていたよ」

急に聞こえてきた声にびっくりして振り返ると朝日に反射して光る黄金の聖衣を纏ったシジフォスさんが立っていた。笑みの中に苦しさも含まれているような気がした。

「エレナ…君の小宇宙は大きすぎて敵に見つかったら危ない。ぜひとも聖域で保護させてもらいたい」
「…なら、おじさんとアガシャに一言言ってからでもいいですか?」
「…勿論だよ」

私はゆっくりと脳裏に焼き付けるように村を歩いた。忘れないために。ほんの一時だけど過ごした思い出のある村。温かく優しくて本当は離れたくない。でも行かなければいけない。だから少しでも居たくてゆっくり歩いた、でもすぐに家に着いてしまう。私は椅子に座り談笑している2人にどう説明したらいいのか分からなかった。

「あ、エレナお帰りなさい!…どうかしたの?」
「アガシャの言う通りだよ、顔色が悪いね」
「私を拾ってくれてありがとうございました…わ、わたし…さ、聖域に行かなきゃ…って、聖闘士様が…」

ガタンと椅子が倒れる音がした。アガシャはびっくりしたようで目を見開かせた。おじさんも同じ。私は精一杯の笑顔を浮かべた。

「また、きっと会えます!2人が大好きです!…っ、それじゃあ」
「エレナっ、私も…大好きだからねーっ!」
「いつでも戻っておいで!君なら歓迎するよ」

なんて優しい人たちなんだろう。全てを言わなくても受け入れてくれた彼らに私は感謝した。――本当はこれが最後な気がしていた。溢れる涙を堪えながら私はシジフォスさんの待つ村外れに向かった。


***


村を出るとシジフォスさんが待っていた。険しい表情…この状況がきっとサーシャを連れて来る時と似ているからだろう。私は笑みを浮かべた。驚くシジフォスさん。

「何を、後悔してるんですか?」
「後、悔…?」
「間違った事をしていないじゃないですか。堂々としてください、黄金聖闘士サマ」

ちょこっとだけ悪戯っぽく言うと「参ったな…」と目尻を垂らし笑うシジフォスさん。手を差し出されたので握ると一瞬で私たちはそこから消えた。次に景色が元に戻ったときはもう聖域の十二宮の入口、白羊宮だった。私はこれから訪れるであろう死闘、憎しみ、絶望、別れ、希望を想いながら階段を上り始めた。そんな私をシジフォスさんはただ見つめていた。

「エレナ、実はサーシャは…」
「アテナでしょ?」
「!知って、いたのか…?」
「花輪の小宇宙、こんなに無限な力は神しか有り得ないから」

サーシャの手首にある花輪によく似たそれを見せると納得したシジフォスはふとエレナの小宇宙のことも尋ねてみた。するとすぐに「私、熾天使ガブリエルらしいよ」とサラリと爆弾発言をしてきた。珍しくシジフォスは目を見開かせた。そんな彼を見てハハハと力無く笑うことしかできないエレナであった。


戦いに赴く決意
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