私は、なぜ恋人にツナを選んだんだろう。時たまそう思う時がある。なぜ、と言われると困る。好きだから、だけではないと思う。大好きだった人を知ってる、と言えば簡単かもしれない。そう、私以外にお兄ちゃんをよく知ってるのはツナだけだから。

――…だから目の前で凄く可愛い女の子がツナに猛アタックしてるのをみて苛ついてるのは、きっと彼氏を誘惑するなという形式的な感情。それだけの話、のつもり、だけど…っ。

「ツナ君、今日はお家に行っていいかな?」
「え、あー…ごめんね京子ちゃん、今日は美々を呼ぶつもりなんだ…」
「じゃあ一緒に行っていい?ホラ、そこに彼女サンもいるし」

大きな瞳をツナから私に向ける女の子。でも可愛らしさ、というよりは貪欲なギラギラした視線を私に投げ飛ばしてきた。あーそっか、この子はツナの事が好きなんだ。

「私、笹川京子!貴女は…?」
「…雨音美々です。えっと、ツナの友達?」

そう聞くと言葉を詰まらせ、顔を歪ませた。丁度ツナからは見れない位置で上手く私を睨んできた。そこから小さく口を開く。可愛らしく首をかしげながら。

「ねぇ、私も一緒にツナ君の家に行っていいかな?」
「…………ごめん。2人で過ごしたいから…」
「!」

京子ちゃんはさらに顔を強ばらせて、私に口パクで「何よ、貴女…」と言った。それからツナの方を振り返ってにこやかに「じゃあ今度お邪魔するね」と手を振りながら教室へと戻っていった。私たちの間に流れる微妙な雰囲気。それを最初に破ったのはツナだった。

「……ごめんね、京子ちゃんは中学で仲が良かった子なんだ」
「や、やだツナっ!私、妬いてないからね?」

でもその言葉が逆に私が妬いている事を表してる…よね。クスリとツナは笑った。

「ばーか、知ってるよ」

ドキッとした、なんて言ってやんないんだから。一発叩いてやろうと片手をあげたけど授業開始のベルに気を取られてツナは逃げてしまった。全く…調子に乗って…。でも笑みが零れる。私は大切にされている、そう思えたからだ。


ツナが迎えに来るまで私は友達と話をしていた。どうやら我が親友は先輩のことが好きらしい。ボクシングが上手くて元気いっぱいらしい。ニヤニヤとしながら名前を聞き出そうした時にぐいっとセーラー服の後ろを引っ張られる感覚がした。振り返ると並高一可愛いと言われている、笹川京子ちゃん。

「ちょっとだけいいかな?」
「いいけど…廊下行く?」
「ううん、すぐ終わるからここで」

先程とは打って変わるにこやかな態度にちょっとびっくりしてるとビシッと人差し指を突き付けられた。

「私、諦めないからね!宣戦布告しちゃいに来ました!それじゃあね、雨音さん」
「え、」

ひらひらと楽しそうに帰っていく笹川さんを呆気に取られるように私たちは見つめた。漸く親友が覚醒した。

「…美々、あんた凄いの敵に回したね」
「敵って…止めてよ、戦ってないし」
「でも向こうは戦う気満々っぽいよ、まあ頑張れ」

やる気のない応援の仕方に私は肩を落とした。そんなバッドタイミングにやっとツナは迎えにきた。凹む私を見てびっくりしてツナは隣にいる彼女の親友を見るが「あんたには関係ない」と言われて何も言えなくなっていた。