本当に苛々する…。目の前に座って笑みを浮かべながらのうのうとコーヒーをすするボンゴレ十代目を美々は睨んだ。それすら気にすることはなく綱吉は私たちの間に鎮座する机に置かれた書類を次々に処理していった。放置されたままかれこれ1時間近く、私は限界だった。

「何がしたいのだ!沢田綱吉!!」
「仕事中だから黙っててよ」
「はっ?仕事中…?なら私を牢にでも放り込んでからしろ!」

自分が知る限りの悪態をつくと顔を顰めた彼はようやく私を見た。今までに見たことない意思の強く篭った瞳に思わず尻込んでしまった。縛られた手首が、痛い。

「それは出来ないな」
「何故…!」
「これから君は俺らと契約するから」

ニッコリと笑った顔は天使のようだったが美々にとっては悪魔同然だった。

「同盟を組もう」
「…なに、言ってるの…?」
「君はボンゴレ傘下に入るんだ」

後ろにいた獄寺が縄を解いた。パッと後ろの壁ギリギリに飛び睨みながら構えた。指輪に炎を……あれ。

「そうそう、此処の部屋ね、慣れた人じゃないと炎が使えない仕組みなんだ」
「…悪趣味」
「そりゃどうも。さ、サインして。そうしたら解放してあげるからさ」

本当に悪魔だった。それでも私はサインペンを手に取った。…私だけのファミリーではないから。彼らの命、生活を私は背負っている。

「…よし、これで君もボンゴレの傘下だ。美々」
「……」

私は何も言わずにその部屋を出た。だからその後に部屋から聞こえてきた何かを叩く音とか、沢田綱吉の表情とか、知らなかった。