啄むようなキスは本来なら甘く、頬を染めるようなものだと思う。だが無理矢理好きになった相手との口づけは嫌悪という言葉に近いもので胃液が込み上げそうになった。別に嫌いなわけではない、友人としてなら好きの分類だ。でも脅されているも同然の美々にとっては気持ちのいいものではなかった。ディープになるそれを終えるとはあ、と美々からは熱い吐息が漏れる。武はそんないつもとは違う色っぽい美々にクラリとしながらもぎゅうと腕に閉じ込めた。

「好きだよ、美々…」
「…うん、わたしも」

頬を胸に擦り寄せ女は瞳を遮断した。これは夢だ、と言い聞かせながら。



***


京子は落ち込む綱吉の傍らにずっといた。これはチャンスでもあるから。…山本くんから持ち掛けられたこの作戦を断る理由なんてなかったから。シャープペンシルの芯先がミミズのようにぐにゃりとした文字とは呼べないものを生み出す。

「ツナくん、文字がおかしいよ?」
「…え?あ、ありがとう京子ちゃん」
「どういたしまして。あ、そこの単語は過去完了だよ!」

整えた爪先で単語を指し示すと綱吉はぼけーっとした表情でそこの文を全て消してしまった。……これは、長期戦になりそう。京子は溜め息をつきたくなった。

「ツナくん」
「んー?」
「私と、付き合わない?」

え、と目と口を丸くさせ京子の顔を凝視する綱吉はまるで中学の時のようにダメツナの面影が色濃く出て、懐かしく笑みが零れた。

「私が美々の代わりになるよ」
「な、に言って…」
「忘れさせてあげる、私が」

ガタンと椅子から立ち上がり身を乗り出し綱吉の唇にキスを落とそうとした。だがぐいっと押し返され、京子は傷付いたような顔をした。
「どう、して…?」
「………京子ちゃんでも、美々の事を忘れさせることはできないよ。だって…」

俺の愛してる人なんだ、美々は。悲しそうな笑みを浮かべた綱吉を見て京子は自分を恥じた。

私に、入る隙は無かったんだ。

涙が零れそうになるのを隠すように教室を飛び出した。綱吉は悲しそうに笑った。

「忘れ、られないんだ…美々」