獄寺はメガネをずり上げながらパソコンに写し出された情報を半信半疑の気持ちで凝視した。画面には美々の写真が大きく出て、下には経歴のようなものが事細かに書いてあった。一般人なら有り得ない単語が並ぶ経歴…それは獄寺のとも酷似していた。

「ネオストラファミリーの、ボスだと…!?」

自分が命をかけて守ると決めた十代目が愛する彼女が、自分たちのファミリーを敵対としているファミリーのボス…。そういえば、と美々は今居ないということを思い出した。

――美々が修学旅行に行けないんだ…外国にいる母親が病気なんだって――

……外国って、どこだ?もしや、イタリア?ヴァリアーと交渉しているのは雨音美々なのじゃないか?
嫌な予感がした。パソコンに写し出された情報を消してから十代目、沢田綱吉が帰っているであろう彼の自宅へと急いだ。そうだ、リボーンさんにも相談しよう。


***


「あ、獄寺くん!ちょうど良かった、今呼ぼうとしてたとこだったんだ。今夜は鍋だって母さ――――」
「十代目、リボーンさん。重大なお話があります」
「…?」

不思議そうな顔をする綱吉を彼の自室へと引っ張る。扉を開けるともうそこにはエスプレッソを口へと運ばせる赤ん坊が我が物顔で居座っていた。チラッとこっちを見たリボーンの目の前に座り、一言だけ言った。

「美々さんの事です」
「そろそろ来る頃だと思ってたぞ、獄寺」
「えっ?な、なんで美々の話なんてするの?」

困惑の色を隠せない綱吉を見て獄寺は苛々した。あいつは、十代目を陥れようとしているに違いない。十代目はお優しい…そこに付け込んだ、そうだきっとそうだ。今日もし俺が偶然にも奴を調べていなかったら…そう考えただけで恐ろしい。重く口を開いた。

「……雨音美々は、ネオストラファミリーの次期ボスです。否ヴァリアーと交渉している時点で彼女はボスに就任しているはずです」
「…………え、美々が、ネオストラファミリーのボス?は、はは…冗談は止めてよ獄寺くん」

渇いた笑い声だけが部屋に響いた。そのまま獄寺もリボーンも冗談だと笑って欲しい。でもそんな希望は儚く散る。顔が真っ青になる。

「ダメツナ、残念だが本当だ…。なんせ美々のパパンを撃ったのは俺だからな」

頭にそれが響いた。理解するのに時間がかかった。…リボーンが、美々の父親を、殺した。カッとした頭で小さな赤ん坊の胸倉を掴んだ。獄寺くんの慌てた声がぼんやりと聞こえてきた。

「殴ってもいーぞ。事実は変わんねーがな…」
「リボーン…それは任務で、討ったのか?」
「そうだぞ、ボンゴレに、9代目に反する者を消すのが俺の役割だったからな」

手の力を弱めるとクルリと簡単にリボーンは拘束から抜け出した。珍しく少し顔を歪ませて。
「…あいつに会った時は驚いたぞ。だが美々は俺を責めなかった、だから俺もお前らに何も言わなかった」

ヒットマンとしてもマフィアとしても失格だな。そう言って笑うリボーンの顔は複雑そうに笑っていた。綱吉は2人に静かに告げた。

「この事は内密に、美々にも言わないでくれ」
「!?十代目いいんですか…!?」
「これは俺と美々の問題だ!」

悲痛そうに叫びながら綱吉は目頭が熱くなった。不満げだが獄寺はそれを了承した。…何かあったら、俺が果たしてやる。握りこぶしに忠誠と正義を握る。綱吉はそれを横目に今は異国にいる愛しい女を無情にも青と赤のコントラストの中に思い描いた。

「…美々、」