「十代目、ネオストラファミリーのボスがヴァリアーとの交渉を承諾したそうです」

獄寺くんの報告にホッとした。ネオストラファミリー、暗殺に長けた一族が仕切る格式を守る中小ファミリーらしい。ザンザスの件でボンゴレ傘下を拒否、反ボンゴレを挙げている。力もある、信頼もおけるとリボーンも言っている、だからぜひ俺の築く新しいボンゴレに居てほしい人材、ファミリーだと思い同盟を持ち掛けた。ちなみに情報収集に屈指のボンゴレでも今のボスが男か女か、ましてや詳細は分からない。だからヴァリアーに任せたのだ。

「ありがとう獄寺君…ヴァリアーにこれをよろしく」

俺はボンゴレから出す条件を書いた書類を差し出した。恭しくそれを受け取った獄寺君は、凄いスピードで教室を出ていった。入り口ですれ違った美々が驚いた顔でその後ろ姿を見ていた。思わず笑ってしまった。……まだ、俺は普通の人間だ。

大学生になれるか、まだ分からない。リボーンは高校を卒業したらすぐ、イタリアに行くぞと耳にタコが出来るんじゃないかって程、言っている。……本当は、マフィアになんてなりたくない。人を殺したり、恐怖にさせたりなんてできない。でも俺には守るものがある。獄寺君や山本、家族、友達、そして美々…。
もう、誰も傷付けたくないんだ。

「ツナ、ちょっと話があるんだ…」

***

私は静かに修学旅行へは行かないと告げた。オレンジの混ざった茶色の瞳が大きく見開かれる。

「えっ、どうして!?」
「…………か、母さんの、具合が悪くて…今外国にいるから…その…そっちに…いかなきゃいけないの…」

バカっぽい言い訳だ。そんな言い方、嘘ついてますって言ってるようなもんじゃない。でも本当に母さんは今イタリアにいる。ツナにも言ってある。……お願い、信じて…っ。

「…………そっ、か…。お母さんの具合が悪いんじゃ、しょうがないよね…」

ふんわりした髪がしなびて見えるくらいツナは落ち込んでいるようだ。…よかった、バレてないみたい。でも、ココロガイタイ。

「うん…本当にごめん…」



ツナに修学旅行に行けないと伝えた日の放課後、教室の外からひょっこりと顔を覗かせた武は帰る支度をした私を見つけて近寄ってきた。少し土の匂いがするユニフォームを着てバットを片手に持っていて、この後部活なのかと思った。

「美々、修学旅行行けないんだって?ツナが嘆いてたぜ」
「あ、武……そ、うなんだよ、ねー」

眉毛をしゅんと八の字にして、本当に残念そうに私を見つめた。

「お土産たくさん買ってきてやるからな!」
「……ありがとう」
「あ、美々が帰ってくる日にすぐ話、したいんだ…」

少し真剣そうな顔、私はついに告白かな、と気軽に思ってた。そう、彼を侮ってた。

「分かった…じゃあ楽しんで来てね」
「おう、母さんお大事にな」