修学旅行まであと少し。手元にはしおりがあり隼人の分刻みのスケジュールを配られげんなりしていた。…でも、楽しみ。そんなときに一本の電話が私を蒼白させた。

「――ボス、ヴァリアーが貴女に交渉がしたいと…」
「そ、それって…っ」
「――事実上のボンゴレ傘下介入、ですかね…」

ギリリ、と歯を食いしばった。ふざけないでほしい。まだ、1年以上、普通に過ごしたかった。
ボンゴレ傘下に入るということは本格的にマフィアのボスとして君臨し、顔も名前もさらけ出さなければならない。
今はまだ、大丈夫かもしれない。でもあのヴァリアーだ。私のことをきっと、調べているに違いない。…………逃げられ、ない。

私は諦めてもう1回受話器を取り上げた。何回かのコール音の後に、聞きたかった声が耳に伝わった。涙を堪える。

「…、母様…」
「あら美々、どうしたの?」
「私……そろそろ覚悟を決めます」

震える私の声を聞いてか、受話器の向こう側が沈黙した。ぐず、と鼻を啜る音が聞こえた。

「ごめんなさいね…貴女にばっかり…っ」
「いいの。これが私の道だから」

夢のような、ありえない道だけど。現実逃避なんてしてられない。通話を終えて静かになる私の部屋。カーテンから月光が差し込みまるで机の中を開けろというかのように照らす。引き出しを開けて高価そうな箱を取り出して蓋を開けると1つのリングが納められていた。キラリとオレンジの宝石がはめ込まれて蔦のようなレリーフが施されている指輪。指にはめて力を篭めると温かなオレンジ色の炎――大空の炎が灯った。それを見届けてから指から外し、チェーンに通して首から下げた。

これが、私の覚悟。