別にお姫様になりたかったわけじゃあなかった。偉くなったりお金持ちになりたかったわけでもない。ただ、普通の女の子になりたかった。

手に握りしめたナイフが異常だと気付いたのは日本に逃げてきてから知った。お母様から護身刀を取られたときは泣きそうになった。お父様からの、頂き物だったから肌身離さず持っていたかったのだ。

公園で1人、スコップを片手にただひたすら穴を掘っていた。スコップなら、なんとか身を守れると思ったから。そんな時に後ろから声をかけてくる男の子の声がした。

「ははっ、随分と深い穴だね」
「っ!!?だれ…」
「そんなにけいかいしなくてもいい。ただ君と仲良くしたいだけだよ」

にっこりと笑った顔に何故か心を許してしまった。何回か同じ公園で遊んでる内に私は懐いた。それからひとりぼっちで泣いていたツナをお兄ちゃんが連れてきて3人で遊ぶようになった。

***

「美々ちゃん!あそぼうよ!」
「じゃあ今からおしろ作るからツナはバケツ取ってきてー」
「ば、バケツわすれた…おうちもどる!」

私が呼び止める間もなくツナは家路を駆けていってしまった。途中でよろけたりこけたり…危なっかしさは止まらない。後ろからクスクスと笑い声がした。振り向くと真っ白な髪の毛のお兄ちゃん。

「たくやお兄ちゃん!」
「ツナは帰ったの?」
「またもどるよ。あそぼうよ!」

ふふと笑うお兄ちゃんは私の後ろを見て表情を変えた。慌てて私を張り飛ばした。

パン!

赤い飛沫が舞う。倒れるお兄ちゃんの下敷きになる私。

「大丈夫かい美々…」
「え、お兄ちゃん…?」


そこで目が覚めた。まだ頭の中で銃声が響いていた。…なんて、目覚めの悪い夢なんだろう。少し冷えた部屋、朝日の透き通るカーテン、荒れる息。

「…ハァ、ハァ…」

お願い、もう傷付きたくないの。