学校は唯一、私を普通だと思わせてくれる場所だった。…思わせてくれている、だけだけど。――同い年の子に囲まれている、それだけでそう思ってしまうなんて…ねえ。気を許した友達がいるわけでもなく、相談できるような先生がいるわけでもないのに。

 決まった制服を着て、決まった時間通りに登校し、決まったくだらない授業をたくさんのクラスメイトと受ける。息苦しいけれど、それでもよかった。

「やあ美玲ちゃん!今日もいつになくミステリアスな雰囲気だねそんな所も俺のハートをガッチリ掴んじゃうよ!」
「………紀田くん、飽きないよね」

 君に飽きるわけないよだって俺君にメロメロだもん、と口説きのような言葉をつらつらと紡ぐ。それ、軽いってか…チャラく見えるんですけど、普通の女の子には。でも私は普通の女の子じゃあないから…。

「じゃあね」
「…あ、」

 何か言いたそうな顔をした紀田正臣をそのまま残して私は肩にリュックを背負って教室を後にした。――私には仕事がある、しかも今日は大掛かりなものが2件も。早く終わらせたいから早足に学校を後にした。5分くらいしてから仕事先に行く手前でぴたりと止まった。振り返ると、誰もいない。

「…………なんで仕事先までついて来るの。…どーせ内容も知っているんでしょう?」

 その言葉を吐いてから私は一瞬でその場を後にした。誰もいなくなった路地から堪えきれないというように笑い声が洩れ出した。黒い影がふらりと曲がり角から出てきた。目元を片手で隠しながら愉しそうに笑った。

「あの力は、何なんだろうな…」