僕の部屋に居候している金魚はチハルと名乗った。彼女の言葉が僕に突き刺さった。
その日は眠れなかった。無意識に認めたくない事を急に叩きつけられたのだから。
ポチャン
チハルがそこに立っていた。心なしか顔が青白い―――
「…叩いて、ゴメンナサイ」
「棒読みじゃないですか」
「これが私の精一杯なんです!
貴方も"こんな金魚"呼ばわりしないで下さい!」
逆ギレされた。
「…すみません」
ふらり
チハルがよろけた。慌てて支えると不覚!とばかりに顔を少し赤らめた。
「…やっぱり、逆らえない」
心臓が高鳴った。彼女は死が免れないものだと十分に受け入れている。僕も、ブラック家という血に縛られ、闇の陣営に入ることを十分に受け入れている。
帝王には憧れとも尊敬とも言える感情が昔からあった今では、………――――
「なん、で、受け入れられるんですか?」
「えっ?」
唐突に質問したからか、目が点になるチハル。しかしすぐに理解したのか自嘲の笑みを浮かべた。
「運命、だからですかね」
「運命…」
「そうです
私、そーゆーの信じてるんです…キリストとかも」
キリスト教の金魚…。
「今レギュラス、失礼な事考えたでしょ!…まあイイデス」
「…はあ」
「私、こう思うんです…運命に逆らう事も勇気だけど、受け入れる事も勇気だって」
「受け入れる事も勇気…?」
そんな考え方は今まで知らなかった。しかし不思議と心に染み渡る感覚。
「それで、いいんでしょうか…?」
「決めるのは、レギュラスだよ?ブラックなんて関係なしに」
家柄を、関係なく―――
(真っ赤に 染まる 実らぬ 想いを)
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