お約束の朝帰りをした。部屋に戻ると異国の服を着た少女がなぜか自分のベッドで寝ていた。



びっくりした。あのブラック家に侵入者が、それも次期当主の部屋に……。

クリーチャーを呼ぶか迷っているとパチリと少女の瞳が開いた。―――真っ黒の、瞳。


「ん、あ…
えっ、レレレレレギュラスさん!?」


「お前は誰だ
ここは、誰も入れないはずだぞ!」


少女はしまった、という表情で部屋の中を見回した。黒い瞳が緑色の部屋を写す。


「ごっ、ごめんなさい!」

「謝罪を求めてるわけじゃない
どうやって、部屋に入ったんだ」


異国の少女はポカンとレギュラスの顔を見つめた。


「え?
ドアからに決まってるじゃないですか
金魚鉢ごと」

「………金魚鉢ごと?」


ふと机の上に置いてある小さなガラスを見る。――金魚が、居ない


「私、チハルって言います
アベ家で育てられてた金魚です」


頭が痛くなった。あの婚約者は、変なモノを持ってきた。顔に出ていたのか慌ててチハルと名乗った少女(又は金魚)が手をブンブン振り回しながら叫んだ。


「ユキ様のせいじゃあ、ありません!
私だって人間になれてびっくり、なんですよ!?
多分、神様がもうすぐ寿命だからってオマケしてくれたのかもですね!」



「変な理由付けしないでくだ…寿命?」


「ハイ、私もうすぐ死にます」


可愛い顔をしときながら物騒な話を持ち出すチハルをレギュラスは苦い思いで見つめた。


「そう、なんですか…」


「だからそれまで居候します
あ、でも最期はきっと元に戻るんで」


「君、此処にいる気かい!?」

「ユキ様は、私を貴方に差し上げたのでしょう?」


何日かしたら死ぬ金魚がこの部屋に居るというのも嫌だが、それでも自分が眠くなっていると急に身体が訴えてきた。思わずさっきまでチハルがいた少しぬくもりの残るベッドに倒れこんだ。


「僕は寝るか、らな…」

「は、はい…」

遠くなる意識の中、チハルの声がした。

なつのにおい
あめのなかで
ぽたぽたおちる
きんぎょはなび


聞いた事もない異国の歌。なんでこんなにも警戒を取ってしまったんだろう…。でも悪くは、ない。レギュラスはそう思いつつすぐに眠りについた。



ひかりでめがくらんで
いっしゅんうつるはあなたの優顔



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