「おかーさまー、これなーにー?」


「あら、ユキは金魚を知らなかったのかしら?これはね、金魚という魚よ」


揺れる水の中から2人の人間が覗き込んでいた。なんだ、どうせまた誰かが連れていかれるのか。冷めた目でユラリと尻尾を揺らした。周りの仲間は飼われる事を最上級の喜びと思っている。

なんて馬鹿な魚なんだ。どうせ乱雑に扱われるだけだろう。見せ物のように狭い所に閉じ込められ短い一生を終えるのだ。人間なんて、信じられるわけない。

そう思っているうちに自分以外の金魚は人間に飼ってもらおうと水面に近づいている。


わたしをかって

わたしはあなたにちゅうじつよ
わたしをかって

ほらつかまえやすいわよ



嗚呼、うっとうしい!苛つきながら彼らに背を向けた。それがいけなかったようだ。


「おかーさーん!この金魚さん、一人ぼっちじゃあ可哀想だからこの子にしていーいー?」

「いい子ねユキは…じゃああの赤いのにしましょうね」


ふわりと身体が浮くのを感じた。慌てて体を捻ったけど、どうやら魔法を使っているようだ。いつの間にか私はビニールの袋に入れられで女の子に運ばれていた。なんて失礼な子供なんだ。私を連れていくなんて。




い い 加 減 に し ろ !




私の目の前には女の子の大きな目。穴があきそうな程見られているからなんだかもぞもぞする。

この子は良いところのお嬢様らしい。私を放した水槽は綺麗で広く、ご飯も前のより美味しかった。


「金魚さ…そーだ!あなたに名前をつけるね!」


愛玩動物である金魚であるこの私に名前を付けるなんて…。私は唖然としながら目の前でうんうん唸りながら悩む少女を見つめた。


少女の名前はユキ。母親と思える女が何度も言ってるから間違いはないだろう。…不思議な子。ふわりと水中で一回転してみる。急にユキがニコニコし始める。

「あなたはチハル、あなたの名前はチハルよ!」


私は、チハルになった。





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