「そんな、嘘ですよね?いつものくだらない冗談でしょう?」
近づくがピクリとも動かないチハル。ゆらゆらと水面にあわせてぐったりとした身体も揺れ動く。
「さっきまであんなに大口、叩いてたじゃあないですか…
ほら、起きて下さい謝りたいんですよ、チハル…」
「ほら、いつもみたいにそこから出てきて下さい…ねぇ、早く……」
声が意識に反して震える。頬がやけに温かいと思ったら目から落ちる雫のそいと気付きびっくりした。涙なんて、何年振りだろう…?それを拭きもしないで金魚鉢を覗き込む、ゆらりゆらり。
「起きて…下さいよ…まだ、話は終わってませんよ…」
「僕は、まだ貴女に伝えてない」
「先に逝くんですか」
瞼のない金魚の瞳は、濁っていた。死んで、いる。プツリと何かが切れた。
「チハル……………」
「チハル………………」
「っ、うぁあぁああぁあぁあああぁあっ」
崩れ落ちた僕の身体。衝撃で落ちる金魚鉢。部屋に飛んでしまった水。床に投げ出された赤いモノ。一瞬にして部屋は雑然なものとなった。
そんなの関係ない。頬を涙が濡らす。浮かぶのはあの異国の姿の少女。今更あの金魚は気付かせたのか。今更……、
なんて、愚かなんだろう。
「僕は、チハルが好きだった…」
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