結局そのまま屋敷を飛び出した。チハルが居る部屋では物を破壊しない保障はない。今の僕は珍しい程魔力が不安定だ。ちょっとの衝撃でその辺にいる魔法使いよりも強いブラック家特有の魔力が出てしまうだろう。静電気に似た感覚が身体を走る。でもそれよりもこの怒りのような感情の方を落ち着かせる事が最優先だ。今は夏休暇の真っ只中だからホグワーツには行けない。


母に今の状態を見られたらまた小言、不本意だがシリウスを頼ろうかと思った。でも兄の居るポッター家には面倒くさい人たちが揃って居るので却下。となれば……。



「叔父の家しか、ないか」


血を裏切った叔父は、家系図からはしっかり消されているような人物だ。つまり、純血主義でないブラックの者、シリウスを構う事もしばしばあった。(彼は似たような境遇の兄をとても可愛がっていた、らしい)


そう決めるとすぐに姿くらましした。この屋敷で魔法を使えてラッキーだった。





「おや、珍しい…よく来たねレギュラス」


あたたかい微笑みを浮かべながらアルフォードは僕に近寄ってきた。久しぶりに見る叔父は少し年取ったようだ。ブラック家特有の灰色の瞳を細めながら彼はリビングへと僕を案内した。

一人暮らしの割に整理の行き届いた部屋、温かい色に包まれていた。本家との差に驚き、あの純血主義の家しかしらなかった僕にとっては少し居心地が悪かった。でも―――


「温かい、ですね」


「独り身だと寂しくてね、ついつい暖色系統のものを揃えてしまうのだよ」


笑いながら杖を振るい、アイスコーヒーを2つ出した。お礼を言い、少し口に含む。特有の苦味が先程までの気持ちがスッと薄れていく。



「さあ、落ち着いたかい?私は君に聞いてもいいのかな」


「…どちらでも」


「じゃあ、どうしたんだい?」

僕は少し躊躇った。でもこのままだと自分の部屋に帰れない、という間抜けな事になってしまう。金魚の事を伏せつつ洗いざらい叔父に話す事にした。






「成る程……その女の子は、優しい子だね」

「…そうでしょうか」

「死に際までレギュラスの事を考えてくれるなんて、素敵じゃないかとても勇気のある子だね」

「………」


まさにグリフィンドールのようだ、と少し笑ってコーヒーをまた一口分かってる、でも認めたくない。認めてしまったら、自分が今まで守り通してきたナニカが壊れてしまう。ハァと溜め息をついた叔父はふと目を遠くにやった。


「君は、純血主義かい?」


「、えぇ勿論」


「私も、古きは大切にと純血が纏めるべきだと思っていた」


初耳だ、あの家で裏切った者の話は禁句だからだ。見開く瞳をチラリと見てから彼は話を再開させた。


「しかし、マグルの血も捨てたもんじゃないのだよ」



「…?」


「彼らは魔法がない分、文明が進んでいる、電気も列車も非魔法族のお陰だ」


「そう、なんですか」


言われてみればそうだ。マグルの乗り物を使って僕らは魔法を学びに行くのだ。―――気付かなかった。


「君はすぐ、帰るべきだ…彼女が待っているしね」


「………はい、では」


ガチャン



手に持っていたカップが割れた。あれ、なんだろう、この嫌な予感は…。


「ほら、間に合わなくなるよ」



割れたカップを鋭く見つめるアルフォード・ブラックはやはり勘当されてもブラック家の者だ。こんな非常事態に不覚にも思った。


「帰ります、」


すぐさまくるりと回った。吐き気のような感覚、チハル………。


緑が基調の自分の部屋、必要な物以外ない。机の上には水の入ったガラス、赤く浮く何か。




水面に金魚が浮いていた。



「……………チハル?」






暗転



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