夜遅くなってからようやくレギュラスは帰ってきた。


「おかえりなさい」

「…えぇ」


余程疲れたようだ。顔は疲労の色を隠しきれていなかった。蝶ネクタイを外しながらドサリとベッドに体を沈めた。何か違和感が頭の中を掠めた。でもそれを振りきりチハルは話しかけた。

「ねぇレギュラス、パーティーはどうでした?」

「……………」

「料理とかどうでした?やっぱ美味しいんでしょうねぇ」

「……………」


「可愛い子も沢山居たでしょう?」

「……………、」


終始無言、さすがのチハルも痺れを切らしてつっかかろうとした。



「僕は、シリウスの代わりだったんです」


突然の事にチハルは怒りが吹っ飛んだ。


「…は?」

「無理やりポリジュース薬を飲んで、シリウスになったんですよ」


「そんな…っ!お母様がそれをしたの?」


「…母上は、ブラック家が大切なんです、そのためなら息子を駒に……っ!、何でもないです、忘れて下さい」


思わず本音が出たのだろう。慌ててレギュラスは訂正をした。


「なんで、止めるんですか」


「当たり前じゃないですか」


「高貴なブラック家の」


「負のイメージを」


「次期当主になる僕が」


「言うわけ、ないじゃないですか」



思わず癖のようになってきた、冷たい嘲笑うような笑みを浮かべる。チハルは無表情だ。桜色の唇を震わせながら言葉を発する。


「レギュラス、それは貴方の本当の意思なんですか?まだ、ブラックなんて鎖に絡まっているんですか?」


「僕は、自ら鎖を纏っているんです」


感情の篭ってない視線はレギュラスを突き刺す。


「その鎖に、縺れながら溺れているのはどこのブラックでしょう」


「なぜ、まだ'諦める'という選択肢しかレギュラスは持ってないんですか?」



「、それが当主への対価です」

「世界は、広いんですよ…鮮やかに、色付いているんです…その対価は無意味です」


「っお前に、何が分かるんだっ!」


「…………」


「急に現れて僕の中を引っ掻き回して見下して、それで満足なんですか?!ふざけるのもいい加減にして下さい!」


睨み付けてながら肩で息をするレギュラス。まるでベールの向こう側を覗くようにただ静かにその姿を見つめるチハル。


「ふざけて、いません……本気でしたよ?」


「…なら出てって、下さい」


「……………」

困ったようにチハルは笑ってレギュラスの言葉を無視してガラスに張られた水の中に戻った。心なしか生気が薄い。


「なんなんですか、チハル…」


無意識に呟いた言葉が、さっきまで言い争っていた熱と共に部屋の静寂に吸い込まれた。






(少しの 時間だけでも)



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