チハルが言った言葉が頭の中を満たしているうちに彼女がこの部屋に来て3日経った。ふと、初めて会った日にチハルが歌っていた曲が気になった。イギリスの歌ではない事は確かだ。癪だが、聞いてみようか。―――前なら気にもしなかったのに


「ねえ、あの歌は何?」


「あの歌…?」


「初めて、会った時に歌ってたじゃないですか」


予想外だったらしく目をぱちくりさせながらチハルはレギュラスをじっと見つめた。


「…聞きたいん、ですか?」


「気になりはします」


「素直じゃないですねぇ…あれは、金魚花火という曲です」


「金魚花火?」


「はい、日本の歌手が歌ってるんです!私この曲が好きなんです」


とても嬉しそうに話す彼女の顔は優しさと儚さに満ちていた。最初の言葉が失礼だが何故だか急に彼女が存在の薄いもののように感じてしまった。そんな僕をよそに、彼女は立ち上がる。

(今まで僕のベッドに座り込んでいた、全くいい迷惑だ)



「チハル、歌いまーす」

他の部屋に聞こえないようにと口を開く間もなくすっと息をすった。



心に 泳ぐ 金魚は

恋しい 想いを つのらせて

真っ赤に 染まり 実らぬ想いを

知りながら それでも

傍に居たいと 願ったの



夏の 匂い 雨の中で

ぽたぽた落ちる 金魚花火

光に目が くらんで


一瞬 うつるは あなたの優顔




静かなメロディが部屋を包みこんだ。小さくお辞儀をするチハル。レギュラスはパチパチと拍手をしながらふとなぜこの曲を、彼女は僕の前で歌ったのだろうと思った。照れたようにはにかみながらトタトタとレギュラスの方に寄った。


「どうでしたか?」


「いい、歌ですね」

「うふふ、そうでしょ!?」


へへへ〜と嬉しそうに笑うチハルを見て思わず口角が上がってしまった。今まで忘れかけていた笑顔、余韻を惜しみながら僕は口を開いた。



「明日はブラック家主催のパーティーなんです」


「………私にお留守番ですか?」


「ここから出ないでくださいね、面倒になりますから
まあクリーチャーに食べられてもいいなら止めませんけど」


途端に真っ青になるチハルの顔、思わず笑ってしまった。



(傍に居たいと 願ったの)



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