少女は断崖絶壁の淵に立っていた。しかし彼女は普通の少女ではなかった。少女――美々の身体を被うのは黄金色の鎧とも言えるものだった。下を覗けばゴツゴツとした岩肌が顔を覗かせており、もしここから落ちればすぐさま即死できるほどの高さもあった。しかし少女は仮面の下で微笑みを浮かべたままその場でじっとしていた。どんなに突風や強風が来ても、だ。彼女は小宇宙(コスモ)を感じとり、近付く者を察知した。

「死ぬのですか?」
「…ミーノス、か。私が死んだ方が君たち冥界軍は嬉しいのだろうな」
「勿論敵は一人でも少ない方がいい、……と言いたい所ですが」

意見を変えようとするミーノスに顔をしかめる少女、美々。仮面の下にあっても不機嫌なのが分かることが彼は面白かった。もし我が主が敵の聖闘士と接触していることを知ったら激昂して自分の命など塵芥になるのだろう。否本当は知っているのかもしれない。あのお方は偉大な神であるから。彼女だって同じである。女神が気付かないわけないであろう。第一黄金聖闘士が黙っちゃいないだろう。彼女の小宇宙を探り、また彼女の近くにある敵の小宇宙も察知するだろう。

「珍しいじゃないかミーノス、君が考え事なんて」
「…いいえ、もしこの状況がハーデス様に知られたらと思いましてね」
「それを言うなら私もお揃いだよ。アテナはきっと、私の異変くらい気付いていそうだがな」

自嘲を浮かべる美々はそっと仮面を外した。初めて見る彼女の素顔にミーノスは息をのんだ。…女神より、美しい。

「そういえば君には言っていなかったね。私がなぜ黄金聖闘士でないのに黄金の聖衣(クロス)を纏っているか」
「……答えて、くれるのですか?」

笑いながら彼女は聖衣をそっと撫でた。

「神衣(カムイ)だからだよ」
「!?」
「私にはヘスティアの記憶がある、ただそれだけ」

悲しげに笑ったまま自分の小宇宙は聖衣に隠し抑えてもらっていると言った。

「私に話して良かったんですか?お仲間にも話してないようですが」
「ミーノスだから、話せたんだよ…」
「!美々…」
「君なら私を私として見てくれる、そう信じてるからさ」

我慢できなかった。彼女の小さな身体を無理矢理引き寄せて見開いた瞳を見ないように自分は目を閉じ唇を押し付けた。息苦しさから開いた美々の薄い唇の隙間から舌を捩込み口内を荒らす。

「…っ、んあ…ミー、ノス…?!」
「…っ私たちは、…なぜ…」

敵同士でなければならなかったのだろうか。聖闘士と冥闘士。銀の髪にどちらとも言えない涙がはらりと落ちた。




あなたにあいを。