気が付いたら大きな目玉とたっぷり数十秒凝視していた。あれ、医務室から出た筈だったんだけど…。あちらも急に私が現れたからか脳の活動がストップしているようだ。…目玉だけなのに脳ってどこにあるんだろ?ハッと私から先に我に返ってくるりと180度回転、強く地面を蹴った。
「ま、待てーーーーーー」
「待つ奴がどこにいるーーーーーっ!」
あの目玉だけでどうやって追いかけてきてるんだよ!そう思って全力疾走の中チラリと後ろを見ると、大玉転がしのように転がっていた。………。気持ち悪い!なんで他の人にはこのでっかいのが見えてないんだよ!そうだ、人目のつかない所なら譜術を使える。慌てて暗い道を選ぶ。曲がって、三叉路を直進、また曲がって…。ようやく誰もいない公園に辿り着いた。
「穢れなき風、我らに仇なすものを包み込まん…イノセント・シャイン!」
「ぎゃあぁあぁあ!」
目玉の真ん中にジャストヒットしたようだ。悲惨な叫び声をあげながらごろごろとのたうちまわる目玉から背を向けて今度はたくさんの人の居るであろう大きな道に行くべく走り出そうとした。しかしいつの間にか似たような魔物のようなものに囲まれた。―――なんだ、この疲労感は。
「てめぇら、俺の目の前で女一人を襲うなんてこたぁしねぇよな?」
「はあ…!わ、若頭じゃあないですか!」
両手を前に突き出して襲うぞポーズを取ったまま怖い顔をして振り返った目玉は羽織りの青年を見た途端にぺこぺこと身体を上下に揺らした。私はそっちに意識を最大限に注意してそっと逃げようとした。
「ほらとっとと消えな、お咎めは無しにしてやる」
「ありがとうございます!それでは…」
「――…おっと、そこの女はまだ行くなよ?」
固まってしまった。な ん で 引 き 止 め ら れ る ん だ よ !くるりと振り返ると異常に近い距離で彼と対峙していることに気付いた。いつの間にこんな近くにきてたんだ、この人…。大人っぽい顔立ちで、独特な髪と、上に立つ人のような雰囲気を纏っている。
「俺は奴良リクオ、お前は?」
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