困ったなあ。

私は袖先から見える手首の傷を見つめた。そこには巌さんを殺した時に出来た傷がある。意外にも深いようでだらだらぽたぽたと流れる赤。

「夏野にバレたらやばそう…」
「俺がなんだって?」
「なっ、夏野?!どうしてここに?」
「どうしてって、あいつを安全なとこに届けただけ…っておいその傷…!」

やはりバレた!険しい顔でずいずいと近寄ってきて手首を握ってきた。止血、のつもりだろうがまだどくどくしてる。私は、人間だから。ふと夏野を見ると苦しそうな表情で血を見ていた。私はそっと右手首を押さえてくれていた手に手を置いた。

「私の血でよければ飲んで」
「っ、ダメだ美々!」
「飢えられるのも嫌、夏野が使えないのも嫌、この村が屍鬼に乗っ取られるのも嫌!手段は選べないわ」

そうまくし立てると険しい顔をさらに深めて、それでも止血していた手の力を緩めた。近くの石に座っていた私の足元に跪ずき、そっと傷口に下を這わせた。つう、と不思議な感覚が皮膚を伝う。漸く出血が収まったのか、皮膚に赤は無くなった。最後に夏野はちゅ、と効果音を手首にキスを施した。

「なっ夏野!?!??」
「…気をつけろよ美々」

そっと微笑む夏野にくらくらしてしまった。…都会の男の人ってみんな、こうなのかしら?