パンパン!
銃声が路地裏になり響いた。硝煙が私を纏わり付く中、まだ煙のあがる拳銃を腰に差し込んだ。眼下には闇夜とは正反対の赤。どくどくどく、とどまることを知らないかのように広まる血溜まり。ちゃんと死んだかを確認して任務完了。電話をかけて仕事が終わった事をクライアントに告げた。……思えばこの小さな機械1つを通じて人の命を消し去るのだと思うと、少しぞっとする。携帯を胸ポケットに戻してこの場から立ち去ろうとした。
殺気。
慌てて振り返ると額にヒンヤリとしたものが触れた。赤と蒼が目に入った。
「クフフ、貴女のような方が気を抜くなんて意外ですね」
「…六道、骸」
彼の愛用の武器ではなく鈍い黒光りした銃が握られているのが見えた。カチリと音がして後は引き金を引くだけなのだと分かった。一瞬の静寂が私たちの間を駆けた。こんな時に限って私は目の前の自分の命の危機よりもくだらないことを気にしていた。もうターゲットの呼吸は止まったかな、とか、そういえばまだこの携帯代払ってないな、とか。そんな心此処に在らず、な私に苛立ったのか舌打ちをしてそのまま左手を私の目の前に翳した。何も、見えない。闇。闇、闇、闇、闇闇闇闇闇闇闇闇闇。――――嫌だ…っ。
「う、わぁあぁあぁあぁあぁあっ!!!」
「所詮、貴女はその程度の存在だったのですよ」
例えばほら、ジャッポーネの政治体制と同じですね。…嗚呼貴女がニホンジンダカラ、わざわざジャッポーネの話に例えてあげるんですからね。……日本の首相、まァ総理大臣は少しでも国民からの期待、人気度を高めようと気に食わないモノを改革しようとしますがソレは保守主義によって妨害されて、挙げ句の果てには自ずを退陣へと追いやられてしまうんですよね。それを輪廻のように繰り返し、繰り返す。それは貴女にも当て嵌まるのですよ。珍しく、饒舌な彼は私を逃すつもりはないらしく幻覚までも使ってきた。もう、天と地がどちらなのかすら解らない。どちらが正義と悪なのかも。結局は下らない現実の為に私たちはこの小さな国の中で躍らされてるだけの沢山いる駒の中の1つでしかないのだ。それも、雑魚キャラ。それは私だけでなくこのオッドアイを持つ彼だって、私とよく仕事をする暗殺者だって、クライアントだって、私の所属していたヴァリアーのボスだって、今イタリアを牛耳るボンゴレボスだって、結局は駒なのだ。それを1人、誰かが愉しんで高見の見物とかましているのだ。
「…っ、くっ…」
「おやおや、まだ抵抗できますか…面白い」
他人事のようにクフフと笑いながら彼は更に術をかけようと私に手を翳しながら近付いてきた。私はそれを見逃さなかった。
「…おや、僕は貴女をみくびっていたようですね…。ここまで抵抗できるとは」
「さぁ、武器を置いて。私は…っ!?」
急に頭に鈍痛が襲った。意識が霧の中に霧散していくようだ……―――。
***
意識が浮上した。 今まで見ていたのは、どうやら夢だったようだ。でもズキズキと後頭部が痛い。
「貴女はただの交渉を上手く遂行させるための保険…いわゆる道具なんですよ」
ふと思い出した言葉。足元で存在感を顕にするジャラリと冷たい鎖。
「そうか、現実だったんだ」
涙なんて流れるわけない。これをどこかで求めていたからだ。自分を虐めたいわけではない。ただ、一人が嫌なだけなのだ。
自嘲を浮かべた私は、案外落ち着いていた。捕われた敵の行く末はどれも同じ。屍。でも独りじゃあない。
彼はいつだって幸せに怯えてる
あの人だって、同じじゃない。なんだかんだ、人と係わり合ってるんだから。
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