私は対峙する教皇を睨みつけた。いやあれはシオン様ではない、双子座のサガである。膝をついて頭を垂れる。

「教皇、私はこの聖域を出ようと思います」
「…」
「来るべき日まで、私は此処へは戻りません…ご了承下さい」

仮面の下のサガは一体どんな表情をしているのだろうか。顔を上げて立ち上がる。その時ようやく気付いた。やけに静かだとは思っていたが…いつの間にか人払いされている。ハッとして教皇を、サガを見ると仮面を外しているところだった。目は赤く、髪はいつもの金髪ではなく燻った色。

「私から逃げるのか美々」
「その髪…いつものサガじゃないのね」
「いかにも。私を倒すか?」
「………いいえ」

私の答えが意外だったのか表情に驚きが含まれた。私はただ、微笑むだけ。

「貴方もサガだもの。私には刃を向けられないわ」
「………ククッ、面白い。本当なら教皇宮の奥に監禁してやろうかと思ったが踊らせるのもまた一興か」
「きっとまた、貴方の元に帰ってくるね。それまでに…強くなる」

握っていた拳を開いて手の平を見つめた。戦いには参加しなかった為にまだ傷ひとつない白い手。でもきっと傷口や荒れ、色も焼けるだろう。

「戻って…くるのだな」

珍しく少し弱気な彼に私はそっと近寄った。ぎゅっと抱きしめると、おずおずと背に手が回ってきた。すると急にぐいっと身体を離された。え、と声を出す暇もなく鋭い痛みが喉を走った。

「うが、あ…あっ!」

痛い痛い痛い!皮が引き千切れる…!タラリと血が皮膚を伝い鎖骨に沿って流れるのが辛うじて分かった。

「お前はこの痛みを忘れるな…それが私とお前の繋がりになる」
「サガ…っ」

傷口に唇を触れさせる、小宇宙を感じた。それから血を流し倒れる私を置いてさっさと消えてしまった。最後、カーテンの向こうに消えてしまう前に肩が震えているのが分かった。

「……また、会えるよね」

今度は幸せな時に。