「任務、ですか…」
「…すまないな。今聖域でこれを頼めるのは美々しか居ないのだよ」

はあ、と溜め息をつきながら椅子に深くシオンは腰掛けた。聖域は復興の為に黄金聖闘士だけでなく白銀、星矢たち青銅も忙しいらしい。今も最低限の聖闘士がいるだけでこの聖域は成り立っている。アテナも財団での仕事のためによく日本に帰られる。だからまた教皇になったシオンが聖域を、聖闘士を動かしている。

「……私でよければ、その命お受けします」
「頼むぞ。…して、もう他人行儀はやめてくれ」
「ここは教皇の間、そんなことできません」

ひざまずいて顔を下げたまま、私は謙遜した。またはあ、とシオンが溜め息をついたが、こればっかりは仕方ない。私は一介の聖闘士、彼はアテナを守る聖闘士の長。身分が違いすぎる。

「…お前は変な所で律儀なのだな」

くすりと笑い、椅子から立ち上がり私に近付いてくる。…この間から立ち去るのだろう。そのまま下を向いていると目の前に黒い法衣が立ち止まった。え、と顔を上げる間もなく肩を押さえられた。

「シオン、さま?」

立て膝である彼の膝辺りを見たまま。そうしたら頭のてっぺんを何かが触れるのを感じた。リップノイズが広い空間にやけに響いた。

「…早く帰っておいで」

やっと顔を上げることができ、見上げると穏やかな顔をしたシオンがそこにいた。……キス、してきたの、もしかして?そう分かると段々と身体が熱くなった。特に唇が触れたつむじが……っ。クスクスと満足そうに笑いながら出ていくシオンの背中を見つめながら、私は頭を両手で押さえながらへなりとその場に座り込んでしまった。